81歳が握るおにぎりは1日300から500個…都内で50年続くおむすび屋の看板娘「休みはいらない」の深いワケ
■夜の楽しみは、自宅でゆっくり「相棒」などを見ること 最大の楽しみは、夜のドラマ。甘いものが大好きなので、コーヒーやお茶と一緒に、今日食べたいと思ったケーキを用意して、テレビの前に座る。それが、一日で最もワクワクする時間だ。 「『相棒』は必ず見る。『ドクターX』も。今は火曜日の『あのクズを殴ってやりたいんだ』と、木曜の松本若菜ちゃんの『わたしの宝物』。この前、撮影でうちの店に来られたの、若菜ちゃん。きれいな人だったねー」 まさか、ドロドロ系ドラマに推し女優まで。大好きなケーキを食べながら、ドラマの世界にのめり込み、弘子さんは毎夜、キュンキュンしている。歌やピアノが好きだった少女は80歳になっても、芸能好きは変わらない。 ■お店を切り盛りし、働く喜びが何よりも健康の秘訣に 仕事が好きで、息子と一緒に働けて、夜にはちゃんと自分の楽しみがある。なんと、素晴らしい人生だろう。コツコツとおにぎりを握り続けた日々に何一つ、愚痴も不満もなく、あるのは働くことの喜びのみ。 「店で働いていないと、つまんない。休みは、なくてもいいぐらいなの。3日休みって言われたら、2日でいいよって」 毎日欠かさず買いに来る客も、一人や二人ではない。今や、地元商店街になくてはならない、唯一無二のおにぎりだ。 「お客さんから、美味しいって言われて。それはうれしいですね。この前も男の子から、『やってて、ありがとう』って言われたね」 健康の秘訣は、「過去を振り返らない、くよくよしない、うじうじしない」こと。「働く手」の赴くまま、毎日300から500個のおにぎりを握る。その日々の繰り返しこそ、弘子さんの人生そのものであり、家族の物語でもあり、なんと尊いものかと思わずにはいられない。 ---------- 黒川 祥子(くろかわ・しょうこ) ノンフィクション作家 福島県生まれ。ノンフィクション作家。東京女子大卒。2013年、『誕生日を知らない女の子 虐待――その後の子どもたち』(集英社)で、第11 回開高健ノンフィクション賞を受賞。このほか『8050問題 中高年ひきこもり、7つの家族の再生物語』(集英社)、『県立!再チャレンジ高校』(講談社現代新書)、『シングルマザー、その後』(集英社新書)などがある。 ----------
ノンフィクション作家 黒川 祥子