絶対女王・安井友梨が語るアジア人選手の優位性 「バックポーズの美しさには、アジア人は格別のものがある」
「IFBB 世界フィットネス選手権」の開催がいよいよ目前に迫ってきた。12月17日からの3日間、東京・有明コロシアムで行われるこの大会に、日本のビキニフィットネスの代表として出場するのが国内大会9連覇を達成し、昨年はフィットモデルで国際大会優勝を果たした安井友梨選手。ここでは特別インタビューの前編として、10月に参戦したアーノルドクラシックヨーロッパ、世界フィットモデル選手権で浴びた“世界チャンピオン1年生”の洗礼と、そこで得た学び。そして日本のビキニ競技の先駆者が考える、アジア人選手の利点について語ってもらった。 【写真】安井友梨選手が世界フィットモデル選手権で見せたスイムスーツ姿
――まずは10月中旬にスペインで開催されたアーノルドクラシックヨーロッパですが、昨年は優勝したフィットモデル172㎝級では2位に終わりました。 安井 私自身が目新しさを打ち出していかないといけないということすごく痛感しました。アーノルドクラシックと世界フィットモデル選手権には、優勝させていただいた昨年と同じ赤のドレスを着用して出場したんです。私としては、「昨年の自分」をさらにブラッシュアップしていけば、間違いがないと思っていました。 ――優勝した昨年の自分をベースにして、正攻法でいこうと。 安井 はい、守りに入ってしまいました。冒険心を失っていたと思います。優勝させていただいた昨年の写真が、いろんな国でポスターに使われているんです。だから、赤いドレスを着た私のイメージが、すでにみなさんの中にはあったと思います。 ――なるほど。同じ赤のドレスを着ると、「昨年と一緒ではないか」という印象になってしまいます。 安井 そうなんです。これまでの自分を追随していては世界では勝てません。道を切り開いていくのが、チャンピオンの使命なんです。日本の大会にはそういった気持ちで臨んでいたのですが、これからは国際大会でも国内大会と同様に、「私がリードしていく」という意識を持って取り組んでいかなければいけないと感じました。 ――もう海外でも「挑戦者」ではなくなってしまったのですね。 安井 審査員の方がおっしゃっていたのが、この競技は新しいチャンピオンが次々に生まれるから面白いと。そうした中で勝ち続けていくには、いい意味で審査員の方たちを裏切っていく必要があると思います。また、私はこれまでロシアの選手たちをリスペクトしていたんです。 ――確かに、ロシアにはビキニフィットネスとフィットモデルの先進国というイメージがあります。 安井 実際にロシアには何度も留学していますし、ポージングやヘアメイクなどもロシアの選手を参考にしていました。ですが今年、私は初めて世界フィットモデル選手権に出場したのですが、そこでは中国の選手たちが独自の世界観を築いていて、会場を魅了していたんです。 ――今年の世界フィットモデル選手権では中国勢が席巻し、多くのメダルを獲得しました。 安井 中国以外のほとんどの国の選手たちは、ロシアに寄せているんです。コスチュームも、ロシアから取り寄せています。いわば、ロシアはこの競技のスタンダードです。しかし、中国はそうしたスタンダードには固執せず、国内でも独自のコスチュームブランドが確立されています。そんな国は他にはありません。会場でも実に堂々とした振る舞いを見せていました。 ――そして、一般クラスの5カテゴリー中、3カテゴリーで優勝しています。安井選手が3位となった172㎝級でも、優勝したのは中国の選手です。 安井 そうした現状を目の当たりにして、私たち日本人もスタンダードに寄せるだけではなく、日本人だからこその魅力を打ち出して勝負していくべきだと感じました。競技を10年続けて、初めてそんなことを思わされました。これは大きな収穫です。 ――世界フィットモデル選手権では日本の本田有希子選手が160㎝級で優勝しています。5カテゴリー中、4カテゴリーでアジア人選手が金メダルを獲得しました。 安井 アジア人はヨーロッパ人に比べてウエストが圧倒的に細いです。一方、ヨーロッパ系の選手は、肩や背中、お尻などが筋肉で丸みを帯びていて、きれいな身体をしていますが、ウエストも太い傾向にあります。丸みを帯びた筋肉は、ビキニフィットネスという競技においては有利に働きます。しかし、これがドレスを着用するフィットモデルになると、ウエストが細いVシェイプの体型、いわゆる「砂時計」のようなスタイルが重要な評価対象になります。 ――アジア人特有のウエストの細さは、フィットモデルでは大きなアドバンテージになるのですね。 安井 そうしたウエストラインの違いは、バックポーズではさらに顕著な差が出てしまいます。バックポーズの美しさには、アジア人は格別のものがあると感じています。ここまでアジアの選手が素晴らしいと思っていなかったと、海外の選手や審査員の方たちはそう言っていたくらいです。「フィットモデル」は、男子選手における「メンズフィジーク」のように、アジア人に向いている競技なのかもしれません。
【JBBFアンチドーピング活動】JBBF(公益社団法人日本ボディビル・フィットネス連盟)はJADA(公益財団法人日本アンチ・ドーピング機構)と連携してドーピング検査を実施している日本のボディコンテスト団体で、JBBFに選手登録をする人はアンチドーピンク講習会を受講する義務があり、指名された場合にドーピング検査を受けなければならない。また、2023年からは、より多くの選手を検査するため連盟主導で簡易ドーピング検査を実施している。
取材・文:藤本かずまさ 撮影:Igor & Jakub