巨大半導体プロジェクト「ラピダス」で問われる地方自治体のリーダーシップと市民の意識改革
ラピダスによる変化を傍観する自治体
千歳市にやってきた「ラピダス」についても同じことが言えるはずです。先にも書いた「北海道バレー構想」を声高らかに叫ぶ首長や議員たち。街の発展のためにも、住民の幸福度を上げるためにも、旗を挙げることは大切なことです。 しかし、ラピダスも北海道新幹線のようなことにならないだろうかと気がかりでなりません。なぜなら、ラピダスに依存しない独自の戦略で千歳市が経済活性化や人口増加などに向けてアクションが動いている気配を感じることがないからです。 ラピダスの影響で、人口増加が見込まれる千歳市の土地は今、昨年よりさらに高騰し、私の理解の域を超えた状況になっています。私が商売させてもらっている千歳市の繁華街・清水町は、ほとんどの建物が昭和から続くかなり古い建物ばかりです。ところがどこも例外なく値上がりしています。 ラピダスの工事関係者なのか、夜の街の人口もわずかに増えた印象はありますが、ラピダスの誘致が決定した時、夜の街が工事関係者で溢れかえるよ!なんて言われていました。が、実際はそれほどでもありません。一方で、酔っ払い客どうしの喧嘩が多発し、警察が介入する機会も増えています。清水町がポジティブに進化しているといった印象は全くありません。 私が懸念しているのは、この清水町の古い建物や猫の額ほど小さな土地でさえも高額で売買され、新たな建物の建築が始まっていること。「ラピダス景気に乗り遅れるな!」という風潮のせいか、小さく区画された土地でさえも、オーナーたちは建物を取り壊し、各々が思うように建物を建てています。 私が言える立場ではありませんが「こんな場所に、こんなに小さなホテルが本当に必要なの!?」「こんな飲み屋街のど真ん中になぜ賃貸マンション!?」と驚くこともしばしば。素敵な街並みになるなんてことは絶対にないんだと太鼓判を押された気分です。 ラピダスが、千歳市の新しい街づくりのきっかけになるだろうと思っていた私は、行政が用意した中心市街地開発のマスタープランに沿って、地形を整えたり、土地の接収、または民間の開発に行政支援と引き換えに相乗りし、街に必要な機能を整備したりするのだろうなと想像していたのだけど、実体は街の未来など無視した開発という印象が強いのです。 なぜ、ラピダスの気配を感じた時に、自治体は街づくりの計画を見直さなかったのでしょうか?完全に出遅れたということは否めません。なぜなら、北海道バレー構想を提唱している本拠地の玄関JR千歳駅は本当にボロボロだし、せめて玄関口の駅ぐらい、きれいで立派にしよう!というくらいのアクションがあったら「ラピダス」で街が変わるんだな!なんて気分にもなったはずです。 さらに、ラピダスによる急激な人口増加は交通渋滞、学校不足など、市民生活に影響を与えるはずです。そういったインフラの整備について、内閣府は交付金の支給を決めましたが、この交付金利用型の開発ではなく、ラピダスに翻弄されない独自の素敵な街づくりのマスタープランがあるのだろうと思い、図々しくも市役所の担当課に問い合わせをしてみました。 すると、担当者の回答は、中心市街地の活性化計画として文言レベルではまとめられているが、アクションプランには何も落とし込まれていないということでした。言い換えれば、民間主導であちこち開発は進んでいるが、市としては傍観するしかないということ。思わず「えーっ!何もアクションプランがないんですか!」と言ってしまいました。 これじゃ、外からやってくる人々はもちろん、千歳市民にとっても魅力的な街になるわけがない!まぁ、1人の担当者に聞いただけだから彼が話したことが全てではないと思いますが、自治体職員の誰もが語れるほどの計画が、役所の中で共有されていないのはまぎれもない事実です。市民に説明できる議員もどれくらいいるのかはなはだ疑問に感じます。 ラピダスの工事は猛スピードで進んでいるのに、玄関口となるJR千歳駅前、繁華街、そして新しい街づくりをどう整備していくのか。千歳市の街づくりのスピードと、ラピダス建設のスピードの違いが大きすぎて、ラピダスと千歳市の動きがうまくリンクしていないことは誰の目にも明らかです。 後編では、「熊本のTSMC」と「千歳のラピダス」の温度差についてお話していきます。 文/Kazuquo 自治医科大学付属病院にてリハビリテーション医療に携わったのち、 福祉住環境開発のために、住宅メーカーへ転職。その後独立し、PR会社、VIPトラベル専門の旅行会社「コスモクラーツトラベル」などを経営しながら銀座の会員制バー「銀座ルーム」のママとして日々、銀座のカウンター越しに日本社会の行く末を見守っている。
@DIME編集部