日本企業は倫理資本主義を実践できるのか? エシックス(倫理)と資本主義を考える(3)
なぜかというと、民主主義国家では、国民的議論、政党政治、議会政治などあらゆるものを通じて、民主主義のあり方、理想的には、等しく優れた選択肢の範囲を定義するからです。私たちは、邪悪な選択肢を除外し、良い選択肢の中から国民に決めてもらいたいと思っています。たとえば、拷問の導入は政治的な選択肢ではなく、除外すべきものです。 民主的な意思決定は構造化された場で行われます。 倫理資本主義がそうした場を形成するのであれば、政府はアップレギュレーションを通じてそれを支援できます。なぜなら、良い政府は良い法律をつくることに携わるからです。
政府の仕事は、法律を破壊したり、悪法を作ったりすることではありません。政府が良い法律を作るためには情報が必要です。政策立案者は正確には専門家である必要はないのですが、彼らが十分な情報に基づいて意思決定できるように、どのような可能性があるかを伝える専門家が必要です。 これは単なるトップダウンではなく、循環型の構造をとると、私は考えています。企業からボトムアップで統治機構に情報を提供し、そこから経済界に情報をフィードバックされることもあれば、トップに実業界が来ることもあります。なぜなら、政府は税収なしに何もできないからです。経済は政治の中にあり、政治は経済の中にあるのです。
■各分野で日独が相互に学び合う 名和:それが循環構造ということですね。日本社会は「インダストリー4.0」をはじめ、ドイツから多くのことを学びました。 たとえば日本経済団体連合会は、政府とともに4.0より1つ進めた「Society 5.0」という新しいコンセプトをつくりました。ですが、現実の社会ではドイツと真につながっているとは言えず、単にインダストリー4.0をコピーしただけにも思えます。これは残念なことです。
まずはドイツとつながり、ドイツから学ばないといけないし、日本の考え方をドイツに循環させることができるかもしれません。ビジネス、政府、そしてもちろん教育のレベルでも、日独で協働する。その意味で言うと、日独を行き来されているガブリエルさんは希望の存在ですね。 ※第4回は、11月5日を予定しております。 (翻訳・構成:渡部典子)
マルクス・ガブリエル :哲学者、ボン大学教授/名和 高司 :京都先端科学大学ビジネススクール教授、一橋ビジネススクール客員教授