日本企業は倫理資本主義を実践できるのか? エシックス(倫理)と資本主義を考える(3)
日本に必要なのは、リノベーション(刷新)です。リノベーションには常にイノベーションが伴います。現代科学の知見に照らして根本的に現代化することによって、伝統的な慣習による考え方を刷新するのです。 神道や仏教といった宗教をはじめとする知的伝統、ソフトパワーの強み、建築、美学、世界の人々が興味を持つ日本製品、日本企業が生産した製品でなくてもよいのですが、そうした日本らしい要素を活かしてみてはいかがでしょうか。現代の科学や哲学における最高の知的水準まで倫理観を刷新して、次のレベルに引き上げる。さらに、日本の老舗企業のようにいろいろなものと融合させるのです。
私がいつも引き合いに出すのが、京都で花札製造から始まった任天堂の事例です。任天堂は常に新しい環境に適応し、直近の新型コロナウイルスによるパンデミックで大復活を遂げました。ロックダウンのときにはみんながゲームをしたので、勝ち組企業となったのです。 遠い昔に終わったものへの回帰ではなく、今も残っているものを現代化して刷新する。これからの日本の利益は、そこにあるのだろうと思います。これはアメリカナイズでは絶対にうまくいきません。
名和:日本には果たすべき役割があり、新しい方法で伝統的な考え方に立ち返ることができるというご見解は心強いですね。私たち日本人は自分たちがしていることをうまく伝えるのが苦手です。任天堂のゲームを輸出するのはいいことですが、その裏には思想がある。 ガブリエルさんはよく来日されるのでお気づきだと思いますが、そうではない世界の人々に日本の哲学や日本流倫理資本主義の価値を知ってもらうには、どうすればよいのでしょうか。
■日本とドイツが手を携えて倫理資本主義をリードする ガブリエル:それは、私が今まさに哲学的な実践のなかで行っていることだと思います。私は、NTTや日立などの企業が参加する京都哲学研究所のシニア・グローバル・アドバイザーになったばかりです。私が実現したいのは、倫理資本主義に基づく自由民主主義国家のグローバルな協力体制を構築することです。 どの国も単独ではできません。日本が世界最大の経済大国でないのは限界があるからです。場所も人も限られています。もちろん、知能革命で規模は拡大できますし、さまざまな可能性があります。それでも、最大の経済大国になるためには物質世界の基礎が必要です。それはドイツも同じです。