大坂なおみも投資する全米熱狂「ピックルボール」の全貌。ソフトテニス王者・船水雄太、日本人初挑戦の意義
わずか48人の狭き門。船水が挑むメジャーリーグピックルボールとは?
また近年、こうした「するスポーツ」だけでなく、「見るスポーツ」としても大きな発展を遂げている。 2021年に設立されたメジャーリーグピックルボール(MLP)は、8チームからスタートし、わずか3年で24チームまで拡大。賞金総額は500万ドル(7億円以上)。中には100万ドル(約1億4000万円)以上の収入をあげる選手も出てきているという。 船水の目指す舞台が、このMLPだ。毎年1月に実施されるドラフトで指名されるためには、アメリカ各地で開催されているピックルボールの大会に参加してポイントを稼ぎ、ランキングを上げることが重要になる。船水は1月から渡米しており、ピックルボールに適応するトレーニングを積んで大会に参戦していく予定だ。 MLPのチームに所属するのは男女2人ずつ、つまり男子に限ればわずか48人の狭き門。ソフトテニスの技術を生かせると船水は言うが、MLP入りできる保証などもちろんどこにもない。大会に出場して勝たなければ賞金も得られない。ソフトテニスとの“二刀流”を目指すとはいえ、ソフトテニスの成績に影響を及ぼす可能性だってある。 ソフトテニス界で確固たる実績と名声を築きながら、大きなリスクを負ってピックルボールに挑戦するきっかけとなったのは、ある人物との出会いだった。
ソフトテニス界の未来は大丈夫なのか…。船水が抱いた漠然とした不安
昨年2月、日本フェンシング初の五輪メダリストであり、日本フェンシング協会の会長を務めた、太田雄貴氏が経営者と各競技のトップアスリートを集めて開催したバーベキューでのことだった。経営者は経営者で、アスリートはアスリートで固まりがちだった中、船水は意を決して経営者の一人に声を掛けた。即戦力人材と企業をつなぐ転職サイト「ビズリーチ」などのサービスを展開するビジョナル株式会社代表取締役社長、南壮一郎氏だ。 船水は自らが抱えていた不安や戸惑いの気持ちを語った――。大学生の時に世界選手権で優勝したものの、ほとんどメディアに取り上げてもらえなかった。世界大会で優勝した他競技の同級生は大きく取り上げられていたにもかかわらずだ。「同じぐらい努力しているはずなのに、何が違うんだろう」。それでも自分がソフトテニス界の顔になって、もっともっと活躍してタイトルを取りまくれば、景色は変わるはずだと信じた。でも何も変わらなかった。「ソフトテニス界の未来はこのままで大丈夫なのか」。もっとソフトテニスの外の世界へとアプローチしていく必要性を感じ、2020年3月に当時ソフトテニス界では珍しかったプロ選手へと転向した。だがコロナ禍により、国内外の大会が中止に追いやられた。これからアスリートとしてどう過ごしていくべきか、漠然とした不安がある――、と。 それを聞いた南氏が口にしたのが、ピックルボールだった。南氏といえば昨年、メジャーリーグベースボール(MLB)のニューヨーク・ヤンキースの部分オーナーになったと報じられ話題になったが、実はその後、MLPのマイアミ・ピックルボールクラブのオーナーにもなっていた(テニスの大坂なおみや、アメリカンフットボールNFLのスーパースターであるパトリック・マホームズも同チームのオーナーに名を連ねている)。 「プロに転向するというチャレンジは、私にも分からないぐらい、ものすごく覚悟の要ることだったと思います。それだけの覚悟があるのであれば、アメリカで急成長していて、ソフトテニスに近い要素もあるピックルボールのプロ選手を目指してみたら?という話をしました」(南氏) 船水は家に帰ってからピックルボールについて調べ、自分で日本ピックルボール協会に連絡し、実際に体験してみた。 「確かにソフトテニスの技術と通じる部分があって、いけるんじゃないかと。それで南さんにピックルボールで勝負してみたいと連絡しました」(船水) 「やるんだったらまずは本場の世界を見た方がいい」という南氏の提案で、昨年6月、南氏のロサンゼルス出張のタイミングに合わせて、船水も現地を訪れた。トッププレーヤーと対戦する機会もあり、確かな手応えをつかんだ。船水の覚悟は、ここで決まった。