90歳になった巨匠、ジョルジオ・アルマーニに6000文字の独占インタビュー。
ーー子供時代の思い出といえば?
戦争を経験しましたが、比較的穏やかな暮らしでした。物はほとんど何もありませんでしたが、幸せでした。全てがとても単純で、心がこもっていたのです。父はミラノのトラック運送会社の会計士で、母は主婦でしたが両親とも芸術が好きで、ふたりはピアチェンタのアマチュア劇団で知り合ったそうです。両親からその頃の話を聞いたことは一度もないのですが、演劇好きは血筋のようです。なにしろ父方の祖父は市立劇場(スカラ座の縮小版)のカツラを作る小さな工房を経営していましたから。
ーー映画との出会いはどのようなものでしたか?
映画がなかったら違った人生になっていたでしょう。2つの世界大戦の間に生まれ育った世代にとって、第7芸術は常に現実から逃れられる時間であり、想像力をふくらませることのできる場所でした。映画が好きなのは、観客をひとつのストーリー、ひとつの世界へといざない、別な現実と同一化するメカニズムを作り出すからです。たとえその筋立てが荒唐無稽であっても。映画はまた、スタイルというものを大いに学ぶ場となりました。エレガンスとはなにかを学んだのも映画からです。だから私の美的感覚はいやおうなく、映画と結びついているのです。最近の映画も含めて、長編映画はたくさん観ます。繰り返し観る作品もあります。アルフレッド・ヒッチコックの『汚名』は今もお気に入りのひとつですし、ネオレアリズモ(イタリア・ネオリアリズム)の作品、たとえばヴィットリオ・デ・シーカの『自転車泥棒』、ルキノ・ヴィスコンティの『郵便配達は二度ベルを鳴らす』、ロベルト・ロッセリーニの『無防備都市』もそうです。これらの作品はドラマチックで美的感覚に優れ、辛くも強烈な時代に特有の、仕事へのこだわりや誇りに満ちています。最近では、『関心領域』がとても面白かったですし、1999年の映画をベースにしたアンドリュー・スコット主演のドラマ『リプリー』も熱心に見ています。
ーー1980年代、映画がきっかけでアルマーニのスーツが大人気となる成功を予想していましたか?
最初は戦略的な選択ではありませんでしたが、映画『アメリカン・ジゴロ』でのリチャード・ギアのスタイリングを担当したことで、映画が大衆の想像力や、登場人物のスタイルへの憧れに与える影響の大きさに気づきました。そこから、ビジネス戦略が体系化されました。ただ、そもそもは直感的に引き受けたので、ほとんど偶然でした。