年内追加利上げの可能性は後退か(日銀総裁記者会見):国内経済・物価はオントラックも米国経済の行方などを慎重に見極める時間が必要に
米国情勢次第で日銀の追加利上げはかなり後ずれするリスクも
また総裁は、足もとの金融市場の不安定な動きが続いており、それを最大限の注意を持って見極める必要性を強調した。さらに、米連邦準備制度理事会(FRB)の大幅利下げの背景にある米国経済の成長鈍化について、それがソフトランディングに向かっていく動きなのか、それとももっと下振れていくのかを慎重に見極める必要があるとした。植田総裁は記者会見の中で米国経済のリスクに何度も言及しており、米国経済下振れのリスクをかなり警戒している印象を与えた。 これらの要因を慎重に見極める必要があるのであれば、年内の追加利上げの可能性は一段と低下したのではないか。筆者は、追加利上げは来年1月と予想してきたが、総裁の記者会見を受けて、その確率は高まったと見る。 いずれにせよ、日本銀行の金融政策を考える上での最大の焦点は、米国に移っているのではないか。米国経済が景気後退に向かう動きとなれば、FRBの大幅利下げ観測とともに急速に円高が進む可能性が出てくるだろう。また、11月の大統領選挙で共和党のトランプ候補が再選される場合、大規模な追加関税の導入で米国及び世界経済を悪化させ、またFRBに大幅利上げを強いつつドル安政策をとる可能性もあるだろう。そうした場合、日本銀行は年内どころか来年いっぱいも追加利上げができなくなる可能性も出てくるだろう。 こうした点を踏まえると、日本銀行は2021年以降の物価高騰時に、FRBなどと足並みを揃えて金融政策の正常化を進めておくべきだった。仮にそれを行っていれば、1ドル160円台まで円安が進み、物価高で国民生活の逆風になる事態も回避できたはずだ。さらに、「円安株高バブル」も形成されず、現在のような不安定な金融市場の状態も生まれなかったのではないか。 木内登英(野村総合研究所 エグゼクティブ・エコノミスト) --- この記事は、NRIウェブサイトの【木内登英のGlobal Economy & Policy Insight】(https://www.nri.com/jp/knowledge/blog)に掲載されたものです。
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