元箱根ランナーが読み解く、ランニング市場の“今”
箱根駅伝を攻略せよ
スポーツ各社のマーケティングにおいて、箱根駅伝は大きな訴求力を持つ。2日間にわたり全国放送されるレースは国内外でも珍しく、グローバルのランニングマーケターに“EKIDEN”の名を知らないものはいない。アルペントーキョーの国松氏は「箱根のシューズシェアは、店舗の売り上げにも大きく影響する」と話す。 かつて箱根の定番は「アシックス」と「ミズノ」だった。16年のシューズ着用者は、「ミズノ」が75人(35.7%)、「アシックス」が60人(28.6%)とツートップで、「ナイキ」は38人(18.1%)、「アディダス」は34人(16.2%)だった。しかし5年後の21年には「ナイキ」201人(95.7%)、「アディダス」4人(1.9%)、「ミズノ」3人(1.4%)、「アシックス」0人になった。
背景には、「ナイキ」によるゲームチェンジがある。ランニングシューズはかつて“薄底”が定石だった。軽量化のためいかにソールを薄くし、クッション性を最低限保つかが争点だった。しかし17年に「ナイキ」は、従来と真逆のシューズ“ズーム ヴェイパーフライ 4%”を発売。反発力を重視し、弾力のあるカーボン製のプレートを分厚いソールに組み込んだ設計のシューズが、メジャーレースを席巻した19年10月に同シューズをはいたケニアのエリウド・キプチョゲ選手が非公式レースで人類初のフルマラソン2時間切りを達成し、その後箱根駅伝にも厚底旋風が吹いた。
他社も黙ってはいない。着用者ゼロの屈辱を味わった「アシックス」は、21年に社長直轄の開発プロジェクトを始動し、エリートランナー向けの“メタスピード”を発売。走法に合わせて選べる機能性を武器に再び存在感を高めている。「プーマ」は22年から駅伝に向けた限定モデルを発売し、キャンペーンビジュアルを制作するなどマーケティングにも力を入れる。
国内外のメーカーが“厚底”の開発合戦を繰り広げた結果、「ナイキ」一強だった箱根駅伝のシューズシェアは徐々に混戦の様相を呈している。100回目の開催を記念した今年は全230人が出場。「ナイキ」は98人(42.6%)でトップを守ったものの、「アシックス」57人(24.8%)、「アディダス」42人(18.3%)、「プーマ」20人(8.7%)、「ミズノ」5人(2.2%)、「オン」3人(1.3%)、「ホカ」2人(0.9%)、「ニューバランス」「アンダーアーマー」「ブルックス」が各1人(0.4%)と、シューズの多様化が見られた。「アディダス」は女子マラソンで世界記録を打ち立てた8万円超えの“アディゼロ アディオス プロ エヴォ1”が箱根でも話題を呼んだ。3区を爆走した太田蒼生選手(青山学院大)は「重みがまったく気にならない。沈んだ分、反発が強く返ってくる。凄いペースで入っても、後半にも足の余力があったのは、シューズのおかげだと思う」と機能性を語る。「プーマ」は昨年12月に発売した“ファスト-アール ニトロ エリート 2”の着用者が目立ち、公式サイトで完売した。「ブルックス」は“ハイペリオン エリート フォー”を履いた新山舜心選手(駿河台大)が花の2区を駆け抜けた。