アニサキスを感電死させ、安全な刺身提供 熊本大が産学連携で挑戦
そこで、浪平准教授は熊本大学が行うクラウドファンディングで「日本の生食文化を守りたい 新アニサキス撃退法の社会実装へご支援を」と題して2023年11~12月に寄付を募った。当初の目標400万円に対し、1397人から1412万5000円が集まった。今年3月22日には豊洲市場(東京都江東区)で、国立感染症研究所の研究員らを交えた講演会が開かれる。釣ったばかりの魚を衛生的に食べられる数少ない国、日本発の研究として国内外の関連業界や消費者などにインパクトを与えたい考えだ。
重度のアニサキスアレルギーには注意
ただ、パルスパワーによるアニサキスの殺虫が社会実装できたとしても、一部の人にはリスクはある。帝京大学医学部附属病院小児科の遠海重裕講師(感染症学)によると、急性胃アニサキス症はアニサキスが胃粘膜に侵入することで急性のアレルギー反応を生じて激痛が起きる。死骸になれば刺さらないのでリスクは消失するとした上で、「一方で全身の発疹や激しい呼吸困難などが起きる『アニサキスアレルギー』も臨床では問題になっている。これは死骸でも起きうるため、重度のアニサキスアレルギーを持つ人のリスクがどれくらい軽減できるのか興味深い」と分析している。
浪平准教授は今後、ジビエなど魚以外の食品やほかの寄生虫への応用も目指すという。「生食による食中毒は食べた人の健康被害のみならず、食品加工会社などの経営への影響もある。安全で安心な食を提供できるように研究を続けたい」としている。国際的にも人気の高い刺身の食文化の継承に、科学の挑戦が続いている。 (滝山展代/サイエンスポータル編集部)