アニサキスを感電死させ、安全な刺身提供 熊本大が産学連携で挑戦
2018年から福岡市の水産加工会社「ジャパン・シーフーズ」と共に経済産業省の補助金を受けて、アニサキスのリスクを負うことなく刺身で食べる方法を模索した。最初は強い電圧をかける方法を試みたが、雷のようないわゆる「放電」が発生して魚の身がボロボロになってしまう。そこで切り身に強い電流をかけたところ、形状を保ったままアニサキスだけが動かなくなっていることが確認できた。「これならいける」と、どのような環境下で電流をかけるとアニサキスを感電死させることができるか実験を重ねた。
最初は金属容器の中に魚を並べて入れ、エネルギーを加える方法を採っていたが、これでは大量の魚が処理できない。そのため工場のように流れ作業ができる方法を検討した。
塩水の中に置いたアジの切り身が流れるベルトコンベアーに15キロボルト、80マイクロファラッド下で、60マイクロ秒ほどのパルスが出力される。そのうち約1マイクロ秒が100メガワット(1億ワット)になり、アニサキスが感電死する。この方法は切り身の温度が1回のパルスで0.1度しか上がらず、身が縮んだり食感に影響を与えたりしないことが分かった。約10センチメートルの厚みがある魚でもアニサキスの感電死が確認でき、寿司のような厚みのある魚の調理法にも適用できると判断した。
ジャパン・シーフーズがこれまでに電流処理した30トンを超えるアジの刺身の試験出荷を行ったところ、店舗から「売れ行きが良かった」という意見が寄せられた。各地で開いた試食会でも「食感が良い」「安心して食べられる」と好評だったという。今後、本格的に市場に流通させるため、浪平准教授は地元の保健所と協議を重ねる予定だ。
熊本の食文化に支えられて
冷凍食品大国である日本はそもそも冷凍か生食かどうか、食べ比べても分からないほど品質が高い。それでも生食にこだわる理由を浪平准教授に尋ねたところ、「熊本出身で小さい頃から親が馬刺しを買ってきた思い出がある。今の馬刺しは主に冷凍で流通しているため、大学生が『生で食べたことがない』という。それはもったいないと思ったから」だという。浪平准教授が幼少の頃の馬刺しは肉屋でそのまま生食用として売られていた。そのおいしさは生でしか味わえないと考えており、魚にも同じことがいえるという思いからだった。「熊本は生の魚や肉を食してきた土地。食文化の継承に貢献したい」という。