デジタル時代に生き残る「 たまごっち 」の物理的な存在感。28年間愛され続ける理由と新たな戦略
懐かしさ、そしてファッション性
DD:『たまごっち』の現在のターゲット層はどのようなものでしょうか? 佐藤:ターゲットは大きく分けて2つあります。ひとつは初代たまごっちを遊んでいた世代が親になり、子どもに『たまごっち』を購入している層。2つ目は、Y2Kファッションや平成レトロの流れで、ファッション性の高いたまごっちを求めている層です。 これらのターゲット層にはいくつかの世代が含まれています。最初のたまごっちのブームは1996年で、その時に遊んでいたファンは現在40代。次に2004年に再びブームが起こり、その時のファンは現在25~35歳くらいですね。 いま、たまごっちのグッズをよく購入してくれているのは主に25~35歳の女性です。この年代の方々はSNSでの発信力が強く、購買力もありますし、他ブランドとタイアップしたときの好意度も高いので、グッズの購買層のメインになっています。 DD:長寿ブランドだからこそ、時代が違えば、得てして求められるコンセプトやテーマが違ってくるように感じます。 佐藤:そうですね。『たまごっち』のデバイス自体も世代ごとに異なる機能を持っているので、打ち出すポイントが世代によって変わっています。ただ、通常のIPと違って玩具発のIPなので、マーケティングもひたすらキャラクターを売り込むのではなく、玩具市場に向けたマーケティングとブランディングが重要になります。『たまごっち』が長く続いているのは、そうした変化を含めた多様性を持ちながらも、常に最先端のトレンド感と存在感を保ってきたからだと自負しています。
『たまごっち』というデバイスにこだわり続ける
DD:世界観は発売当初から変わっていないのでしょうか? 佐藤:『たまごっち』を扱う上で忘れてはいけないのは、デジタルペットであって「生き物」であるという考え方です。この考えは初代から変わっていません。『たまごっち』は、「宇宙から隅田川に落ちたUFOに乗っていた生物が地球で生きられるように開発されたデバイス」という設定があります。 そのため、たまごっちのなかで生きられる環境を整える必要があり、一部の企画を除いて、ほかのデバイスとはできるだけ関わらせないようにしています。前提として、『たまごっち』というデバイスにこだわっていることが、世界観を作り上げるうえでのポイントでしょうか。 DD:現代はスマートフォンが普及しており、小中高生も多くがスマホを保有しています。たとえば、アプリなどの開発もあえてしていないということでしょうか? 佐藤:はい。あえてやっていません。確かに、アプリを作れば売上が大きく伸びる可能性があります。スマホのアプリのほうが手元にあって使いやすいし、育てやすいかもしれません。でも、スマホのなかではなく、ちゃんとデバイスを手に持って使い込むことで愛着が生まれると思うんです。そうした『たまごっち』に対する温度感を大切にしています。『たまごっち』には電源のON・OFFも付いていませんから。 自分たちが現実で生きている時間と同じ時間をたまごっちと過ごすことで、生き物との親近感や生き物を大事にしようという心が育つ。ただの可愛いキャラクターではなく、生き物をお世話しているという世界観を大事にしています。加えて、バンダイは「ものづくり」の会社ですから、物としての存在にもこだわっています。 そもそも、スマホにはたくさんのアプリがあって、フリックすればすぐに別のものが見つかりますし、SNSの通知などが飛んできて、ひとつのアプリに集中するのが難しいですからね。