2029年に最低賃金1500円は「余裕で可能」な根拠 最賃の引き上げは「宿泊・飲食、小売業」の問題
しかし、最低賃金の議論はしばしば感情的です。中小企業の経営者団体は、「失業者が増える」「中小企業が倒産する」「地方が崩壊する」「下請けいじめで大企業が悪い」などと訴えますが、検証してみると、中小企業の経営者団体は一部の中小企業の理屈を一般化し、賃上げの必要性を潰そうとしているとわかります。たとえ一部の企業が困難に直面する事実があっても、それをもって「中小企業全体が困る」と主張するのは誤りです。 現在の中央最低賃金審議会は、労使の意見の腕相撲のようなもので、労働者側は「上げてくれ!」、経営者は「失業者が増える!」といった力比べをしています。それによって最低賃金が決まり、多くの人の生活水準が決まります。
これは杜撰なやり方であり、「地方は大変だ」「中小企業は対応できない」といった経営者団体の主張は根拠に乏しく、不安を煽るものです。 経営者団体の発言は、事後的に検証すると事実と異なることが多く、利権に絡んだ主張として懐疑的に検証すべきです。経験上、経営者団体は嘘をついているわけではありませんが、一部の事実を一般化することで意図的に誤った結論を導く合成の誤謬を主張しており、極めて遺憾です。 本来は、日本経済が30年間も成長していない現状を踏まえ、統計学者と経済学者を中心にビッグデータを徹底的に分析し、企業の支払い能力を精査して、毎年の最低賃金の引き上げ幅を決定すべきです。その引き上げ幅について、経営者団体と労働者団体にヒアリングするだけで調整する方法が望ましいです。
たしかに、2029年までに1500円に引き上げれば、一部の中小企業は対応が難しいかもしれません。しかし、一部の企業ができないからといって、すべての中小企業で働く労働者の賃金を上げなくていいという理屈は成立しません(中小企業では、全労働者の7割が働いています)。 いちばん弱い企業が対応できないため、すべて一律に引き上げを止めるのは「賃金の護送船団方式」と言えます。しかし、護送船団方式では強い企業も成長できず、一部の企業のために賃金が上がらないと、労働者全員が貧困を強いられる理屈になります。人口減少が進む日本では、こうした理屈から卒業する必要があります。