医療人類学者が警告「アレルギー」途方もない負担 花粉症、食物アレルギー等がもたらす重い問題
■身近であるがゆえに軽視されがちなアレルギー 古くは古代のエジプトやギリシャにもそれとおぼしき記録が残され、現代では人口の3人に1人が患っているとされるアレルギー。現在、世界中で数十億人の人々が何らかのアレルギーと共に生きており、その数はここ10年ほどで増加の一途を辿っている。 だが、命を落とす患者の数はさほど多くないがゆえに、社会全体でのアレルギーに対する問題意識は低いままにとどまっている。 例えば、マクフェイル氏の父は蜂毒へのアナフィラキシー反応によって命を落としたが、こうした虫刺されによる死亡例は極めて珍しい。
『アレルギー』に引用されている調査結果によれば、ここ20年ほどの間に昆虫に刺されて亡くなったアメリカ人は、平均して年にわずか60人強。これは、アメリカの国内総人口の0.00002%にすぎない。 マクフェイル氏自身の言葉を借りれば、彼女の父の死は「外れ値」であり、「不幸な事故」であった。しかし、彼の友人と親族にとっては、紛れもなく人生を変える出来事だったのである。 実は、マクフェイル氏の父は生前に自分の蜂毒アレルギーのことを知っており、緊急用の自己注射薬であるエピペンの処方箋を医師から渡されてもいた。
だが、当時の自身の医療保険ではこの薬の費用(数百ドル)が全額自己負担とされたこと(アメリカでは加入している保険の種類により保険の適用範囲や自己負担額が大きく異なる)などから、薬局でエピペンの処方を受けることはせず、蜂に刺された際には市販の抗ヒスタミン剤を飲んでやり過ごしていたという。 また、マクフェイル氏の母方の叔母も、やはり蜂毒へのアレルギー反応で救急治療室に運ばれた経験がありながら、その後もエピペンではなく市販の抗ヒスタミン剤を持ち歩いていた。
これらはいずれも、マクフェイル氏が著書『アレルギー』のための調査を行う中で初めて判明した事実だった。 彼女が取材した患者、臨床医、研究者たちの言葉や、実施した大規模な研究調査の結果からも、身近であるがゆえにアレルギーを軽視しがちな私たちの姿勢と、そこからもたらされる危険が描き出されている。自己判断による市販薬のむやみな使用や、裏づけの乏しい自宅用検査キットの氾濫も、その一環といえるだろう。 ■重荷を抱えて生きる患者が見通す未来