阪神監督就任の9年前「高知に行くことにしました」藤川球児のサプライズ独立L入団は「名解説者の片鱗が見えていた」取材した記者が感じたワケ
独立リーグでの冒険は貴重なものだったのだろう
藤川の高知での成績は6試合2勝1敗、33回47奪三振6与四死球、自責点3、防御率0.82。9月7日の香川戦では完封勝利も記録した。 藤川は翌年、阪神に復帰。当初は先発で投げたが再びセットアッパー、クローザーとして活躍し、36歳から40歳までの5シーズンで220試合18勝13敗23セーブ61ホールド、306奪三振132与四球、防御率2.96を記録。速球は150km/hフラットになったが、それでも打者の手元でホップして空振りを奪うことができた。 恐らくひと夏の独立リーグでの冒険が、藤川球児に「精気」を取り戻させたのだろう。
“解説者”としてシビれるような言葉
引退後の藤川球児は、解説者となった。筆者は藤川球児こそが、当代最高の野球解説者だと思っている。 投手が投げる1球ごとの意味、次の球の予想、打者、投手の心理を刻々と解説する。いわゆる「予想」もよく当たるが、それが意味あるのではなく「プロ野球はこう見るのだ」という見方をはっきり示しているのがすごい。彼の解説を聞くたび、そのわかりやすさに陶然となった。 昨年4月29日の東京ドームでの巨人―広島戦。最終回に広島のクローザーの栗林良吏がマウンドに上がった。栗林は3月の第5回のWBCに選出されていたが、故障のため、試合に出ることなく戦線離脱した。 涙をのんだ栗林は、再調整をして開幕には間に合ってクローザーをつとめていたが、この時点で防御率は4点台、苦しい状況だった。3対2で広島がリードした最終回、栗林がマウンドに上がる。 解説の藤川球児は〈栗林投手が本調子でないのはわかっていますが、結果を出していくしかない。アウトを取っていくことです〉と冷静に語った。2死までは取ったものの、岡本和真を歩かせ中田翔が打席に。中田はここで逆転サヨナラホームランを打った。マウンドに崩れ落ちる栗林。場内の大歓声を背景に、藤川は言った。 〈こういう職業です〉 何度も同じ思いをしてきた藤川ならではの、シビれるような一言だった。
監督インタビューでも研ぎ澄まされた言葉だろうが…
藤川球児が阪神の監督になる。野球ファン視点から見ると、今もっとも「光る言葉」を紡ぐことができる野球解説者が1人去ることになる。 そのことに筆者は、感慨を覚えざるを得ない。もちろん、監督インタビューでも研ぎ澄まされた言葉で話はするだろうが――「解説者・藤川球児」に対する未練は大きい。
(「酒の肴に野球の記録」広尾晃 = 文)
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