「幸福度が高く、成果も出せるチーム」は、何が違うのか? ポーラ幸せ研究所が見つけた「7か条」
<経営でも課長のマネジメントでもサッカーチームの運営でもチームビルディングは永遠の課題...。株式会社ポーラの及川美紀社長にインタビュー>
株式会社ポーラの社長である及川美紀さんは、同社の経営理念にある「永続的幸福」の追求のため、2021年に「ポーラ幸せ研究所」を立ち上げました。目的は、幸せのメカニズムを科学的に分析し、ポーラでの実践を重ねて得た知見を社会に提供すること。その集大成が、ポーラ代表取締役社長を務める及川美紀さんと、幸福学の研究者である前野マドカさんの共著『幸せなチームが結果を出す』(日経BP)です。 ●日本だけ給料が上がらない謎…その原因をはっきり示す4つのグラフ 幸せで成果の出せるチームづくりの秘訣とは? 及川さんはどんなリーダーシップを大事にしているのか? 人生に影響を与えた本とともにお聞きしました。(※この記事は、本の要約サービス「flier(フライヤー)」からの転載です) ■「チームビルディングは永遠の課題」、ポーラ社長拝命で痛感したこと ──及川さんが『幸せなチームが結果を出す』を執筆されたきっかけは何でしたか。 きっかけの1つは、ポーラの社長を拝命したときにさかのぼります。「及川さんには足らないところがたくさんある」「あなたには変えたいことがあるんでしょう」といわれたんです。これは、周囲の優秀な人たちとチームをつくって新しい価値をつくり、変えたいことを変えていきなさい、というメッセージだと受け取りました。そのとき、経営でも課長のマネジメントでもサッカーチームの運営でも、チームビルディングは永遠の課題だと気づいたんです。 社長就任から数か月でコロナ禍になり、ポーラは会社存続にかかわる危機を迎えました。ポーラショップの強みは、お客様の手に触れ、対話を重ねて商品を販売するプロセス。こうした価値が届けられなくなってしまったのです。 ポーラショップを運営するビューティーディレクターたちは個人事業主。月々の売上が減るとその分収入が途絶えてしまう。そんな状況下で、自分たちができることを見出して未来に向かうチームと、「会社はどうしてくれるのか」と他責の思考になりがちなチームとに分かれていったのです。 前者のチームは、「こんなときでも来てくれるお客さまや一緒に働く仲間がいる」と、手元にある資産に目を向けて、自分たちでできることを探していった。すると、どのチームもコロナで売上が下がったのに、リカバリーで差が出てきたんです。 ポーラの幸せ研究所の調査では、未来に向かっていくチームは、メンバーの幸福度が高く成果も出るチームでした。しかも、ポーラショップで働く人と一般の働く女性の幸福度を比較したところ、前者のほうが幸福度が高いことがわかりました。 個人事業主であるビューティーディレクターたちが、なぜこんなにも幸福度が高く、チームとして現場を支えているのか。これを解き明かすなかで見えてきた「幸せなチームづくりの7か条」を、会社に限らずさまざまなチームに知ってもらいたい。それが本書の執筆動機でした。 ■「幸福度は高いが、成果を出せていないリーダー」との違い ──及川さんは2021年に幸せ研究所をつくり、所長になられました。設立の経緯はどのようなものでしたか。 ポーラの企業理念は「美と健康を願う人々および社会の永続的幸福を実現する」。では私たちが実現したい幸せとは何なのか改めて考えよう、というのが設立のきっかけでした。「美と健康を願う人々」とは、ポーラの社員とビューティーディレクターをはじめとするビジネスパートナーのこと。まずは社員とビジネスパートナーの幸せを、そしてお客さまの幸せを追求しようとして行きついたのが、幸福学を研究する前野隆司先生の著書『幸せのメカニズム』でした。読み進めると、幸福学のソリューションとポーラの状況がまさにピッタリだと気づいたのです。 ──「幸せで成果を出すチームの共通項」のなかで、特に印象深い発見は何でしたか。 読者から反響があったのが、「本人の幸福度が高く、成果を出しているリーダー(オーナー)」と「本人の幸福度は高いけれど、成果を出せていないリーダー」を比較した結果でした。 前者のリーダーは、相手の幸せを自分の幸せと捉え、「利他」の精神を持っていました。そして、幸せなチームづくり7か条にもある、「ジャッジをしない・正解を求めない」「任せる・委ねる・頼る」という行動を徹底していたのです。彼女たちが大事にしているのは、「相手にとっての幸せ」は何かを考えること。その結果、命令をせず、まずは自分が動いていた。 一方、後者のオーナーは自分のためにメンバーを動かし、メンバーを変えようとしていました。メンバーのことを、自分が幸せになるための「道具」のように捉える「利己」の精神が見受けられたのです。 ──大事にする起点が「相手」なのか「自分」なのかで、大きな違いが生まれたのですね。 たとえばメンバーに行動の改善を求めたい場合にどうするか。幸福度と成果がともに高いリーダーは、「なぜ~~できなかったの?」と追及するような聞き方はせずに、「次からあなたはどうしたいと思う?」と意見を聞く。すると、メンバーは委ねられることで自分が必要とされていると感じ、自主的に行動するようになる。大事なのは、リーダー自身が、相手ではなく自分が変わるというマインドでいることです。 短期的には指示命令をするほうが成果は出るかもしれません。ですが、長期的に成果を出せるチームになるには、「自分で考えて動ける人」が育つことが大事です。危機に瀕したときに、自分で考えて判断し、試行錯誤したケーススタディーがちゃんと蓄積しているかどうか。そういう経験を積んだ人は、今後自ら動くリーダーになれるかもしれないですよね。