NEC、最新LLM「cotomi v2」や高度な専門業務を自動化できるAIエージェントなどを発表
日本電気株式会社(以下、NEC)は27日、メディアやアナリストを対象にした「NEC Innovation Day 2024」を開催し、同社の研究開発および新規事業戦略について説明。生成AIの新バージョンである「cotomi v2」を公開し、2024年12月から提供を開始することを明らかにするなど、生成AIを中心とした最新技術を展示した。 【画像】NEC Corporate SVP兼AIテクノロジーサービス事業部門長兼AI Research Officerの山田昭雄氏 NEC 執行役 Corporate EVP兼CTOの西原基夫氏は、「AIエージェントやセキュリティによるシステムインテグレーション、生体認証技術の実装による市場拡大などにより、現事業の競争優位性を確保。その一方で、NECの知的財産を新たなビジネスモデルに活用し、2025年度には3000億円の事業価値創出を見込む。この目標は上回る見通しであり、次期中期経営計画では、全社利益の10%の貢献を目指す」と語った。 また、NEC Corporate SVP兼AIテクノロジーサービス事業部門長兼AI Research Officerの山田昭雄氏は、「NECは、迅速な価値提供を実現するための体制づくり、継続的な新サービスの投入するための最先端プラクティスの実証、業務プロセスの改革を加速するための新機能の継続的な投入により、社会のあらゆるシステムにAIを導入し、住みやすい社会を実現する『NEC AI Agent is Everywhere』に取り組む」と述べた。 ■ 3つの新技術を発表 今回のNEC Innovation Day 2024においては、3つの新たな技術を発表した。 □大規模言語モデル「cotomi v2」 ひとつめは、大規模言語モデル(LLM)の「cotomi v2」である。 NECは2023年7月から、他社に先駆け、「NEC Generative AI Service」として生成AIサービスの提供を開始。その後、日本語LLM「cotomi」として、優れた日本語能力を生かし、業種の特性をとらえた利用を促進し、国内企業向け導入を進めてきた経緯がある。 今回の「cotomi v2」では、推論能力の精度と推論速度を向上させ、生成AIを用いた高度な専門業務の自動化ができるという。具体的には、日本語のLLMベンチマークの「Japanese MT-Bench」において、ClaudeやGPT-4、Qwenなどに匹敵する精度を達成。さらに、Qwenの6倍、GPT-4oの2倍の速度を実現したという。 また、生成AIの性能を維持しながら、GPUの演算効率を2倍に高める技術も発表し、環境に配慮した生成AIの活用環境を実現できるとした。 山田事業部門長は、「世界最高水準の精度と速度を、さらに強化するとともに、根拠を提示することで信頼性を向上。今後は、自己学習によってプロンプト作成の負担を軽減する機能も搭載する。医療分野や金融分野など、高精度、高速性が求められるニーズに対応する」と述べた。 □高度な専門業務の自動化を実現するAIエージェント 2つめは、AIエージェントである。 ユーザーが依頼したい業務を入力すると、cotomiが自律的にタスクを分解し、必要な業務プロセスを設計。さらに、それぞれのタスクに最も適したAIやITサービスなどを選択し、業務を自動的に実行する。 例えば、「キャリア採用者の育成戦略を作りたい」と入力した場合、指示内容から最終成果物を育成計画書であると自動的に設定。社内外の情報収集や分析、プログラムの生成や実行など、複数のタスクに分解し、それらのタスクに対して、cotomiをはじめとしたLLMや、社内外の検索エンジンの呼び出し、NEC独自の図表文脈理解機能を用いた図表の理解といったタスクを組み合わせた業務プロセスを設計して、育成計画書を作成する。 第1弾として、経営計画や人材管理、マーケティング戦略など、社内外の情報を包括的に検索し、意思決定が求められる業務のプロセスを自動化するサービスを、2025年1月から提供を開始する。 西原CTOは、「昨年のNEC Innovation Day 2023では、AIオーケストレーションを発表したが、これは、複雑な業務を分解し、さまざまなAIによって、毎回異なる処理をダイナミックに行うことを示した。AIエージェントの概念そのものであり、進化し、成長し続ける動的なITシステムを実現するものになる」と説明。 さらに「AIエージェントは、自動化ではなく、自律性が重要である。ワークフローを再設計し、改善すること、定型化したやりとりではなく、人と柔軟に協働すること、不足する機能を自動で実装し、常に発展し続けることが特徴となる。提供価値は自律的に拡大し、人への指示と同様に、毎回異なる対応を行えるインターフェイスを持つ。これからのAIエージェントの差異化ポイントは基盤技術力と、新たな業務フロー設計力になる」と述べた。 □情報を損なうことなく図表を自動でデータ化 3つめは、マルチモーダルの拡張だ。 人手で行っていた複雑な図表の読み取り作業を、情報を損なうことなく、自動でデータ化し、利活用できるサービスで、図表に書かれている文字を認識するだけでなく、レイアウトの位置関係や図の大小、重なりなど、人であれば理解ができる図表ならではの暗黙のルールを、AIが読み取り、正確な情報を抽出することができるという。 生成AIで活用可能なデータの種類を広げ、適用業務の拡大を進めるとともに、顧客の業務変革の実現に貢献するという。2025年1月から提供を開始する。 NECの山田事業部門長は、「RAGを使って社内文書を処理しようと考えても、社内文書に図表が多く用いられ、AIが正しく理解してくれないという声が多かった。こうした課題に対して、新たなテクノロジーで応えることができる」と述べた。 ■ さまざまな試作機も展示 これらの3つの新たな発表に加えて、試作機などの展示も行った。 □ソニーセミコンダクタと連携し小型化・軽量化したAIカメラを開発 これらの3つの新たな発表に加えて、試作機などの展示も行った。 NECでは、顔認証、虹彩認証、指紋認証で世界ナンバーワンの評価を獲得しており、オフィスやスタジアムの入退出、入出国管理のほか、インドでの国民IDでも、NECが持つこれらの技術が活用されている。 今回の展示では、高性能の追求だけでなく、小型化や軽量化、ロバスト化を進めることで、さらに広いシーンでの利用を促進できることを強調した。 その取り組みのひとつとして参考展示したのが、ソニーセミコンダクタソリューションズ(SSS)との連携によって開発した、AIカメラのプロトタイプである。SSSのAITRIOS(アイトリオス)を活用。高精度を維持しながら、顔の領域検出および特徴量抽出できるデバイスを軽量化することに成功しており、外光環境でも利用できるなど、多様な現場に、容易に導入できるようになるという。2025年度に商品化する予定だ。 説明会にビデオメッセージを寄せたソニーセミコンダクタソリューションズ システムソリューション事業部の柳沢英太事業部長は、「今回の協業を通じて、NECの優れた生体認証技術およびシステム開発に関する豊富な知識と、ソニーセミコンダクタソリューションズの技術と融合させることで、エッジAIによる世界を広げ、社会課題に挑戦していくことができる」と述べた。 □マルチモーダル生体認証を専用端末やタブレットなどで実現する技術 また、顔認証と虹彩認証を組み合わせたマルチモーダル生体認証を、専用端末やタブレットなどで実現する技術も発表した。低画質な小型なカメラでも、高速で、高精度の認証を実現できるという。入退出管理だけでなく、ATMや金融決済なども利用できる技術だとしている。 今後は、特定した人の周辺状況や動作、バックグラウンドを深く理解した個人理解や個人最適な活用のほか、データ連携やデータ分析により、過去を理解し、未来を予測し、個人の生活の利便性を高めるといった用途にも応用できると期待されている。 □衛星画像解析とLLMを組み合わせ被災状況を迅速に把握 さらに、衛星画像解析とLLMを組み合わせて、迅速な被災状況を把握するといった提案も行った。衛星で撮影した画像から災害前と災害後の変化を広域に把握。一戸ごとの詳細な損壊状況まで、AIがインタラクティブに解析する。 自治体および企業の災害時の対応や、防災対策に生かしたり、金融製品の組成などにも活用できたりするという。2025年度から試験導入を開始し、2026年度以降に事業化を目指すという。NECでは、衛星画像を活用したビジネスを推進しており、それを加速するソリューションにもなりそうだ。 「地球上で発生する災害に対して、ブレイクスルーになるソリューションになる」(西原CTO)と位置づけている。 ■ NECの研究開発への取り組み またNECでは、業種ソリューションへの生成AI活用例として、電子カルテシステム「MegaOak/iS」の販売を開始し、人手不足が深刻化する医療現場における文書作成の効率化に貢献したり、製造業向けPLMソリューションである「Obbligato」に生成AI機能を搭載して、設計業務の効率化と精度、速度向上を実現したり、といったことを新たに発表。加えて11月25日には、さくらインターネットと生成AIプラットフォーム領域で協業したことも紹介した。 NECによると、研究開発部門を含む同社グローバルイノベーションビジネスユニットは、約2000人規模の専門家で構成。そのうち、研究開発部門では約40%が海外拠点に在籍している。また、AI、セキュリティ、通信などにおいては、世界トップクラスの技術競争力を保持し、生体認証や映像認識、分析・対処AIでは、累積PCT国際特許出願数では世界一であり、NECが提供する社会イノベーションの基盤になっている技術であると位置づけた。 NECでは、2021年度から技術ビジョンを外部に公開。生成AI、量子コンピュータ、衛星ネットワーク、ライフサイエンス分野において、事業の方向性を明確にしてみせたほか、2024年5月に発表したBluStellarを通じて、NECの最新テクノロジーを活用した競争優位性を発揮する考えも示している。 一方NECは2023年に、研究開発と事業開発の取り組みを並行しながら実行することで、市場への提供スピードを高める取り組みを開始すると宣言。2024年8月には、AIテクノロジーサービス事業部門を設置し、その取り組みを一歩進め、研究開発から事業開発、デリバリー、オペレーションまでを一気通貫で担当する体制を構築した。これにより、個別SI事業、サービス事業、ライセンス事業を通じた展開を進め、高度な専門業務の自動化にフォーカスし、徹底的に安全安心を守りながら、確実に業務が遂行できるAI利用環境を提供できると述べた。 また、AIへの取り組みに関する基本姿勢についても言及。クライアントゼロとして、同社自らが率先して最新技術を活用する取り組みをAIにも適用し、社内でAIを積極的に活用していることを強調した。 さらに社内のAI人材の育成についても触れ、同社が開発した独自の育成プログラム「LLM SkillUP STUDIO」の受講者が、2024年10月時点で約450人に達したことを公表した。「高度なAIテクノロジーに対する知見を持ったエキスパートを育成し、上流から構築、運用まで、お客さまのDXライフサイクル全体を支える人材を拡充している。今後、1000人規模にまで増員する」(山田事業部門長)という。 ■ 無形資産の収益化への取り組みを説明 技術や特許などによる無形資産の収益化についても説明した。 ここでは、NECが強みを持つ技術の特許を異業種へライセンスし、収益を拡大する「既存事業の特許」、NECが持つ知財を提供し、スタートアップや大手企業が活用したり、NEC Xによって事業化したりする「北米スタートアップ」、知財ライセンス事業により、AIを活用し、低コストで迅速に新薬を提供する「AI創薬」、顧客の研究開発に向けて、研究者の知見を活用して、高度専門職型コンサルティングサービスを提供する「先端技術コンサルティングサービス」を挙げた。 西原CTOは、「2025 中期経営計画における特許収入は、前5年に比べて倍以上になっている。3桁億円の収入があり、さらに拡大させたい。また、NEC Xでは、2021年~2024年に20件の事業化を実現しており、次期中期経営計画における事業化数は3桁の規模にまで拡大していく。創薬においては、がん免疫治療における抗原提示プロセスで、統合的にAIを活用しているのはNECだけであり、成果のひとつである頭頸部がん向け個別化ネオアンチゲンがんワクチンは、24カ月の無再発を維持している」とした。 さらに、一滴の血液で疾病を予測できる検査サービス「フォーネスビジュアス」では、AI技術によって将来の疾患リスクを予測。国内大手製薬会社9社から、この技術を活用した測定サービスを受注したという。
クラウド Watch,大河原 克行