<春風を待つ―センバツ・宇治山田商>支える人々 OB・江川智晃さん プロ時代にも全力で 120段走り込み、心の支え /三重
◇現役部員も10往復 センバツに出場する宇治山田商の選手にとっての「大きな支え」。2003年夏の甲子園に出場した卒業生でプロ野球・福岡ソフトバンクホークスに16年間、在籍した江川智晃さん(37)だ。現役選手がトレーニングに使う宇治山田商の裏門の階段は、プロ野球選手時代の江川さんにとっても精神的な支えだったという。【原諒馬】 【写真で見る歓喜の瞬間】歴代のセンバツ覇者たち JR五十鈴ケ丘駅から続く宇治山田商の裏門。そこから校舎の間に、約120段の階段が続く。ソフトバンクの外野手として活躍した江川さんは地元に帰省すると、野球部の練習に顔を出しながら、この階段で走り込みを繰り返した。 高校時代の江川さんにとって、階段の走り込みが「一番きつくて、嫌いだった」。それを思い出しながら、厳しいプロの世界で生きる自分を奮い立たせていたという。20往復と決めたら、全力で走る。やりきると「不安が取り除かれた」と振り返る。 03年夏の三重大会決勝で延長十二回、2年生の江川さんがサヨナラ本塁打を放ち、四半世紀ぶりの甲子園出場をたぐり寄せた。翌年のドラフト会議でダイエー(現ソフトバンク)から1位指名を受けた。プロ入り後も定期的に宇治山田商を訪れて、後輩を気に掛けてきた。 高卒でプロ野球選手として活躍する江川さんの存在は、歴代の山商球児に大きな影響を与えてきた。08年の春のセンバツ出場時に主将を務めた北川直峰さん(33)もその一人。部員時代に何度か帰省中の江川さんと会い、「プロってこんな(高い)レベルなんや。ここまで到達するのは難しいけど、頑張ろう」と奮起した。 階段の走り込みは、現役部員にも受け継がれている。投手の藤田大輝(2年)は昨春からほぼ毎日、10往復走り込んでいる。おかげで下半身の筋力がつき、体幹も向上したという。「きついが、偉大な先輩がやっていた練習ができるのはありがたいし、頑張ろうと力になる。まだ公式戦にはほとんど出られていないが、今後も毎日続けて、まずはベンチ入りしたい」と意気込む。この話に江川さんは「うれしい。体力も心も強化できる練習なので、引き続き頑張ってほしい」とエールを送った。 江川さんは19年にプロ野球を引退し、現在は伊勢市の精肉店「まるとも荒木田商店」代表などを務めている。引退後はより近くから、野球部の練習を見つめている。16年ぶりとなる母校の甲子園出場に「一つでも上を目指してほしい。若いチームは、1回(勢いに)乗れば、すごく成長する。歴史を塗り替える快進撃を期待している。できれば優勝してほしい」と力を込める。 〔三重版〕