【解説】今の40代・50代の老後の年金底上げをどう実現?
■年金が低めの「我慢期間」が30年以上続く?
では、この「我慢期間」がどれほど続くのか、厚労省が試算したところ、会社員などが加入する「厚生年金」では、2026年度でこの期間が終わりますが、会社員のほか、自営業、フリーランスなど含め、条件を満たした加入者みんなが受け取る「基礎年金」については30年以上、「我慢期間」が続くということです。 つまり、今の高齢者に我慢してもらうだけでなく、今、40代50代の人も、年金を受け取り始めてから5年間や10年間、低めの年金になってしまうのです。特に老後に基礎年金しか受け取れない自営業の人や、会社員でも給与が低い人は老後にもらえる厚生年金が少ないため、基礎年金が低めの時期が長引くと、老後の生活が苦しくなってしまいます。
■元会社員の高齢者に約10年我慢してもらい、今の40代50代が受け取る年金を増やす?
そこで、厚労省の年金部会は、この「我慢期間」が30年以上続く状態を変えようと議論しています。 11月25日に議論されたのが、会社員らが過去に納めた厚生年金保険料の積立金の一部を使って、将来、会社員や自営業など皆が受け取る「基礎年金」を底上げする案です。 具体的には、今後約10年間、元会社員の高齢者には我慢してもらい、年金額の伸びを物価や賃金の上昇分よりも低く抑えます。そこで浮いた年金の資金を将来に回し、今の40代、50代の人が、高齢になり、年金をもらい始める頃に、基礎年金を底上げするのに使おうというのです。基礎年金は皆が受け取るものなので、この改正で基礎年金が増えれば、自営業者やフリーランスの人だけでなく、会社員も恩恵を受けられるということです。 年金部会では、多くの委員が「今の若い人たち、特に就職氷河期世代などが将来受け取る年金が低い状態は変える必要がある」などとして、この「基礎年金底上げ」の案に賛成しました。個人レベルでみると、自営業やフリーランスの人でも一時期、会社員として厚生年金保険料を納めていた人も多く、厚生年金の積立金を、会社員以外も含めたみんながもらう基礎年金の底上げのために使うことは問題ないといった意見も出されました。 しかし、課題もあります。実は、高齢者らに配る基礎年金は巨額で、保険料や積立金だけでは足りないので、基礎年金の半分は国からの資金(つまり税金)でまかなっています。将来受け取る基礎年金が増えるのは朗報ですが、基礎年金を増やすとなると、それだけ多くの税金が必要になります。厚労省の試算では、基礎年金を底上げする制度改正を行うと、たとえば2037年度には年間2000億円、2060年度には年間2兆5000億円もの税金がさらに必要になるということです。 厚労省は、どのようにこれを確保するか、増税が必要なのかなど、具体的な方策は示しておらず、年金部会では「これだけ巨額の税金を本当に確保できるのか」などと複数の委員が懸念を示しました。厚労省は、この改正だけでなく、いくつかのテーマを盛り込んだ年金制度の改正案を年末までにまとめる予定です。