「闇」のススメ、暗い夜がなぜ心身にいい影響をもたらすのか、DNAの修復からうつの緩和まで
カギは明るい昼と暗い夜のコントラスト
私(著者のジュリアン・フリン・サイラー氏)が暗闇に魅了されるようになったのは、2022年10月に北極海でラフティングツアーに参加したときのことだった。 私たちはガイドと一緒に大型船からゴムボートに乗り移り、大型船の照明から離れた海上まで移動した。そこでガイドはゴムボートのエンジンを切り、私たちに静かにするように言った。 私たちは空を見上げ、星々がきらめく真っ暗な夜空の広大さに打たれた。闇はあまりにも濃く、どちらが上でどちらが下か、どこまでが夜空でどこからが漆黒の海なのか、その境目が分からなかった。私は混乱しながらも高揚した気分だった。 私は北極の暗い夜空に輝く星々を見上げながら、自分の中にポジティブな感情が湧き上がるのを感じた。 この体験は、私と闇との関係を変えた。私はそれまで早く寝てよく眠ることを好んでいたが、夜に照明や電子機器の電源を切り、闇を感じる時間を持つようになったのだ。そして、毎晩どのくらいの闇を感じるのが健康にとって理想的なのか、考えるようになった。 ピープルズ氏は私に、「リラックスし、体内時計を整え、メラトニンのレベルを上昇させるためには、就寝する数時間前から明かりを暗くすることが重要です。照明だけでなく、電子機器のスクリーンもです。ベッドに入ったら、完全に暗くするのがベストです」と教えてくれた。 では、自然の暗闇を味わえない場所に住んでいる人はどうすればよいのだろう? アイマスクと厚手の遮光カーテンを使うのだ。明るい昼と暗い夜のコントラストをつけることがカギなのだ、とピープルズ氏は言う。
恐怖でもあり、安らぎでもある
私たちが暗闇を受け入れるにあたって最大の障害となるのは、暗闇を否定的に捉える価値観かもしれない。例えば、暗さは無秩序や犯罪につながるという考えが、世界の多くの地域で街灯を増やしている。そして私たちは、夜の闇の中で起こるすべてのことに本能的な恐怖を持っている。 けれども芸術家や詩人や音楽家は、昔から、私たちが暗闇を恐れると同時に、暗闇から安らぎを得ていることを理解していた。 「Hello darkness, my old friend(やあ暗闇よ、親しき友よ)」という歌詞で始まるサイモン&ガーファンクルの名曲「サウンド・オブ・サイレンス」は、私たちがときどき光から逃れる必要がある理由の本質を捉えている。この曲は私に、最も深遠な癒しや洞察の瞬間は暗闇の中で訪れることを思い出させてくれる。
文=Julia Flynn Sile/訳=三枝小夜子