「闇」のススメ、暗い夜がなぜ心身にいい影響をもたらすのか、DNAの修復からうつの緩和まで
「畏敬の念」が心身を守ってくれる
私たちが星空保護区で夜空を見上げ、宇宙の広大さを思うときに感じるような畏敬の念を、メンタルヘルスの向上や幸福感と関連づける証拠も集まってきている。 自然の中で過ごすことがメンタルヘルスに良いことは以前からはっきりしていたが、2024年に学術誌「Journal of Environmental Psychology」に発表された論文は、この効果が昼間だけでなく夜にも当てはまることを示唆している。 「私たちが自然の暗闇を体験するときに呼び起こされる畏敬や驚異の念は、健康を守ってくれる可能性があるのです」と、ラスキン・ハートリー氏は言う。氏は2001年以来、世界各地で220以上の星空保護区を認定し、光害と暗闇に関する学術研究をモニターしている米国の非営利団体「ダークスカイ・インターナショナル」(旧国際ダークスカイ協会)のエグゼクティブ・ディレクターを務めている。 「畏敬の念とは、私たちと生命の深淵な謎との関係性だ」と、米カリフォルニア大学バークレー校の心理学教授であるダッチャー・ケルトナー氏は、2023年に出版した著書『Awe: The New Science of Everyday Wonder and How It Can Transform Your Life(畏敬の念:日常の驚異についての新しい科学と、それが人生を変える理由)』の中で述べている。 畏敬の念は、体にとっても意味のある感情だ。炎症性サイトカインの過剰な産生を抑制し、神経系を落ち着かせ、ポジティブな感情をもたらし、「愛情ホルモン」とも呼ばれるオキシトシンの分泌を促す。 暗闇の中で過ごすことがもたらす心理的な恩恵は非常に大きい。教会やシナゴーグやモスクに通う人々が昔からよく知っているように、暗い空間は人々のマインドフルネスと創造性を高める。 演劇や映画が始まる前に照明を落とすことには、もっと深い理由がある。この暗さが、想像力を解き放つ「リミナルスペース(境界領域)」を生み出すのだ。夕方に薄暗くなるとき、自然はまさにこれをしている。