“矯正”が必要な日本の半導体政策、ベトナムの方法はどこが手本になるのか?
(湯之上 隆:技術経営コンサルタント、微細加工研究所所長) ロジック半導体の微細化が40nm(ナノメートル)付近で止まってしまった日本は、世界最先端の微細化を独走している台湾のTSMCを熊本に誘致して、第1工場で28nmと16nm、第2工場で7nmと40nmを生産することになった。 「図1 半導体の製造工程と日本の状況」など本記事の図版を見る TSMC熊本工場はウエハ上にチップをつくり込む前工程を専門に行うファウンドリー(半導体受託生産会社)であるから、この工場に生産委託する設計専門の半導体メーカーであるファブレスの存在が欠かせない。また、ウエハ上にチップができたら、それを切り出してパッケージングし、検査する後工程メーカーのOSAT(Outsourced Semiconductor Assembly and Test)も必要である。 ところが、日本にはファブレスが10社もない(5社程度ではないか? )。また、後工程のOSATも、ほぼない。ただし、最近、OSATの売上高ランキングで世界1位の台湾ASEが北九州に進出するかもしれないという報道がある。もっとも、実現するかどうかは分からない(図1)。 【本記事は多数の図版を掲載しています。配信先で図版が表示されていない場合はJBpressのサイト(https://jbpress.ismedia.jp/articles/-/83727)にてご覧ください。】 もしかしたら日本政府は、TSMCを熊本に誘致したことにより、「これで日本のロジック半導体は大丈夫」とでも思っているのだろうか? だとしたらそれは大間違いである。ファブレスとOSATの強化が必要不可欠であり、今のままでは極めてバランスが悪いとしか言いようがない。 では、米国や中国などの他国はどのような状況にあるのだろうか? また、バランスが悪い日本の状況を解消するには、どの国をお手本にすればいいのだろうか?
以下では、まず、設計、ファウンドリー、OSATの地域別の状況を見てみることにする。次に、米国および中国と日本の実態を比較する。その上で、ここ数年、半導体産業に注力することにしたベトナムの政策が、非常にバランスが良く、優れていることを示す。 もちろん、ベトナムの国家政策が計画通り実現するかどうかは分からない。しかし、日本が半導体立国の目標を掲げるなら、ベトナムのようなバランスの取れた政策を立案するべきである。目標すらなければ、実現することもあり得ないからだ。 ■ 世界の地域別の設計技術者数の割合 図2に、設計技術者数の地域割合を示す。エヌビディア(NVIDIA)、AMD、クアルコム(Qualcomm)、ブロードコム(Broadcom)などを擁し、ファブレス大国となった米国が32%を占めている。次いで、中国が28%、インドが19%となっており、中国とインドの合計が47%で、世界の設計技術者の約半分が、中国人とインド人であることが分かる。 ところが、日本の設計技術者の比率は、わずか2%しかない。ここから、日本は、設計分野が非常に貧弱であることが分かる。これは、日本にファブレスが5社程度しかないということとも符合する。 一方、世界の28%を占めている中国では、2022年時点で、何とファブレスが2810社もある(図3)。2015年に、半導体強化のための国家政策「中国製造2025」が制定されて以降、ファブレス社数は急激に増大しており、まだデータはないが2023年には3000社を超えていてもおかしくない。