この夏のヒアリ対策 上陸を徹底阻止し、万一の定着にも備える
もともとヒアリは南米の熱帯~亜熱帯原産の昆虫であり、日本の寒い冬を越すことはできないであろうという意見もありますが、実際には、外来種の定着リスク評価において、そのような単純な気候適応のコンセプトはあまり役には立ちません。 例えば、日本に侵入してすでに定着を果たしているセアカゴケグモは、オーストラリアの熱帯~亜熱帯域原産のクモですが、1995年に大阪で発見されて以降、現在までに国内44都道府県に分布を広げており、ここ数年で東北地方や北陸地方といった積雪地帯にまで定着が確認されています。 本来の生息域の気候から考えれば、そのような寒冷地で彼らが生息できるはずがないと推定されますが、都市化や宅地化が進む中、冬でも暖かく過ごせる空間が人為的に提供されるようになって、そうした空間に逃げ込むことで、気候帯と関わりなくこのクモはどこでも生きながらえることができるようになったのです。同じことはヒアリにも当てはまり、ヒアリも日本中のどこで野生化するかわからないと考え、警戒を怠らないことが重要です。
環境省・国立環境研究所のヒアリ対策
国立環境研究所では昨年1年間の発見事例と経過を踏まえ、環境省と共同で今後のヒアリ対策について検討を進めてきました。これまでのところ、国内においてヒアリが発見された場合は、その場で殺虫剤散布により殺虫処理を行うとともに、発見場所周辺にベイト剤と言われる殺虫成分を含む餌を設置して生き残った個体の拡散を防ぐという、いわば水際対策がとられてきました。 しかし、こうした水際対策は、輸入されたコンテナの目視点検およびコンテナ置き場周辺での目視調査で発見されたときにしか行えず、また毎日大量に輸入されるコンテナ全てを完璧にチェックすることは不可能であることから、いずれ、監視の目を逃れて、ヒアリがコンテナごと内陸部に持ち込まれる事態は避けられないと思われます。
やはり侵入を防ぐには元から絶つことが一番有効で、中国から輸出されるコンテナの中にあらかじめベイト剤を設置し、ヒアリが紛れ込んでも輸送中に駆除できるようにする、という対策案が検討され、環境省は昨年秋から中国政府に対して協力要請の交渉を試みています。 しかし、残念ながら中国政府からは未だ交渉を受託する返事すら送られてきておらず、このプランは不可能とまで言わずとも、その実現には時間がかかると判断せざるを得ません。やはり、自分の身は自分で守るしかなく、日本独自に侵入を阻むための技術開発・手法開発を急ぐ必要があります。