「ベルリンの壁」崩壊とセダンの衰退、クーペ化にミニバン台頭 混乱する欧州車
セダンが“オワコン化”して行った過程
かつてセダンこそがファミリーカーの中心だった時代があった。しかし日本ではこの20年、セダンのプレゼンスは下がり続けている。これが日本だけの状況かと言えば、そうではなく、タイミングの差こそあれいまや世界的にもセダンは“オワコン化”しつつある。 「ミニバンの方が広くていいじゃん」という言葉だけ聞くと、なんだか無知な言い草に聞こえるかも知れないが、実は本質を射抜いた言葉だと思う。セダンが衰退した原因はそのエアボリュームでミニバンに大差をつけられたからだ。 自動車の世界にも様式(プロトコル)というものがある。プロトコルとしてセダンがもつ属性はフォーマルだ。もちろん「プロトコルなんてクソ食らえ」というのは自由だが、だからと言ってプロトコルは社会に共有されている価値観だから個人の力では変えることはできない。社会通念の変革にどの程度の時間がかかるのかはわからないが、それまで、セダンはフォーマルであり続けるだろう。 「スーツは着ない」とか「ファストフードを歩き食いする」とか、そういう行為はプロトコルがあることを知っているから「ラディカルな行為」としての意味があり、ただの無知や野蛮と違ってくる。フォーマルなセダンがあるからパーソナルなクーペがある。だから当然セダンの価値喪失はクーペの衰退とも因果関係がありそうだ。
欧州から消えた速度無制限的な世界
1989年のベルリンの壁の崩壊が欧州のセダンに与えた影響も大きいと思う。ベルリンの壁が壊れたことで、旧東側のマーケットは西側に解放された。同時に東側の人々が西側諸国に仕事を求める。仕事をして豊かになる。その結果市場としての価値が上がる。こういうポジティブなスパイラルで欧州の経済は発展した。 特に自動車のマーケットはある種のバブルでもあったと思う。しかし、そうやって自動車に乗る人が増えたことで、かつての様な速度無制限的世界が欧州から消えて無くなった。速度無制限で有名なアウトバーンはもちろん、制限速度があっても取り締まりが緩かった欧州各国の高速道路は、自動車が増えすぎて慢性的に混雑や渋滞が発生し、スピードを出せなくなった。 時速200キロが出せなくなれば、そんな超高速性能は要らない。その結果、空力と重心高、車両重量的に見て時速200キロ走行を視野に収めつつ、大人4人の居住性が保てる唯一の形であったセダンはその価値を喪失した。速度レンジが落ちればミニバンでもSUVでもいい。むしろその方がエアボリュームの面で合理的だ。ベルリンの壁崩壊から起きた雪崩現象で、欧州ではセダンはその形であることの機械的合理性を失った。 そうして居住性の高いピープルムーバーやSUVが売れるようになる。欧州の場合、日本ほど商用車ベースのミニバンは多くないし、必ずしも1ボックスの形をしていないのでミニバンと呼ばずピープルムーバーと呼ばれていたりするが、それは売る側のイメージ戦略など事情があってのこと。ややこしいだけなので、ミニバンと呼ばせてもらう。要はこの原稿の中でセダンと対比されるエアボリュームの大きいクルマのことだ。