「ベルリンの壁」崩壊とセダンの衰退、クーペ化にミニバン台頭 混乱する欧州車
残されたセダンのフォーマルさ
合理性がなくなるとセダンに残されるのはもはやフォーマルなプロトコルだけになる。「エアボリュームが欲しいならミニバン」なのだから、セダンは4人乗車の必要が無くなる。プロトコルだけの問題だったらもっとカッコよくした方がいい。そんな中で現れたクーペと見紛う形のセダン、ベンツのCLSがヒットを飛ばした。 以後こうしたクーペもどきセダンは各社が取り入れて行くが、そこは守旧性の高い欧州のこと、旧来のセダンを支持する層もいる。他に後述する理由があってやめられない。さらに2ドアのクーペと4ドアのクーペもどきの棲み分けをどうするのかも混乱が深まっていく。 とりあえずBMWを例に挙げよう。BMWはこれまで3シリーズのバリエーションであったクーペとカブリオレを4シリーズとして独立させた。さらに2ドアのクーペを従来通り「クーペ」4ドアのクーペもどきを「グランクーペ」と呼ぶことにした。この2ドアは3シリーズセダンがベースの2ドアだが、安さを売りにしているわけではなく、付加価値モデルなのでクーペと呼んで差支えは無さそうだ。 さらに「セダンがクーペスタイルで売れるなら、SUVもクーペっぽく……」ということでX3とX5にもクーペもどきの派生モデルを作り、それぞれX4、X6とした。ここではたまたまBMWを例に出したが、他のメーカーもセダンをベースにクーペを派生させるという事情は同じだ。 しかもここにさらにややこしい状況が加わる。欧州では「カンパニーカー制度」というものがある。会社が社員のクルマを事実上買い与えたりするのだ。これは借り上げ社宅と同じ考え方だ。カンパニーカーにすれば、会社は車両代金を経費でおとして節税できる。社員はその分を給与でもらうより所得税を安く抑えられる。どうせクルマを買うならその方が都合がいい。 カンパニーカーは、建前上業務用のクルマなので税務署が認める範囲の規定がある。セダンでないと困る。クーペもどきではダメなのだ。だから自腹で買うユーザーにしてみると、クーペもどきは「俺のクルマは自腹で買った」という勲章になるわけだ。そういう人は意外に多く、あえてクーペもどきを選ぶ人が少なくなかった。