独完全移籍のFC東京DF室屋成がラストマッチで残した”置き土産”とは?
FC東京を率いる長谷川健太監督が「今年に入って精度が上がった」と称賛した、右サイドからのクロスを供給する場面は残念ながら訪れなかった。それでもマテウスの突破をケアしながら、右タッチライン際を何度も上下動するスピードとスタミナを披露し、瞬時に状況を見極めた末に持ち場を離れて真ん中へ絞り、シャビエルを潰すリスクマネジメント能力も発動させた。 もっとも、室屋が仲間たち、特に若い世代へ残した置き土産はそれだけではない。レアンドロのシュートが決まった瞬間、室屋は前方にいた仲間たちを追い抜いてゴール前へと詰めていた。 「ワンチャンス転がってきたらいいな、という気持ちでしたね」 もしかするとシュートがポストに当たるかもしれないし、グランパスの守護神ミッチェル・ランゲラックに弾き返されるかもしれない。結果として徒労に終わっても、万が一の可能性がある限りは全身全霊のプレーを怠らない。細部の積み重ねが勝利を、そして必ずタイトルを手繰り寄せる。 「相手がボールを保持するのが上手いチームであることを考えたら、球際のところで強くいくとか、戦う部分といったところは見せられたのかな、と思っています」 5試合ぶりにあげたチームの白星と4位浮上を支えたサッカーの根本的な部分を、身体を張って示し続けた室屋は、苦楽をともにしてきた仲間たちへロッカールームで別れを告げてから羽田空港へ移動。深夜に飛び立つ便で、新たな戦いが待つドイツへと笑顔で旅立っていった。 (文責・藤江直人/スポーツライター)