矢野達人(スリープコーチ)「睡眠を重視しているアスリートは極端な好不調の波がありません」
スリープコーチの矢野達人が語る睡眠論。厳しい勝負と競争の世界を生きるアスリートたちを勝利に導く指導者、キャプテン、それを陰でサポートするコーチから学べることは? 【写真を見る】セミナーにはプロ野球やJリーグの関係者など約70名が参加
「睡眠をパフォーマンス基準と捉え、価値を見直す」
「寝ていいと言われたら、いくらでも寝られる」 睡眠について訊かれた大谷翔平のコメントだ。翌日がナイターの場合、10~12時間は眠るという。食事の誘いを断って睡眠を優先したエピソードは驚きをもって報じられたが、これを機に「取材依頼が劇的に増えました」と語るのは、プロ野球選手やJリーガーにスリープコーチングを行う矢野達人だ。 「大谷選手は睡眠時間を10時間以上確保しているといわれていますが、真似をしても大谷選手のようにはなれません。大谷選手の『勝ちパターン』であって、8時間睡眠の人が10 時間寝ようと無理してしまうと、睡眠の質が2時間分薄まる。パフォーマンスまでも下がってしまうんです」 睡眠の重要性は誰もが否定をしないだろうが、運動と睡眠の間にはどんな関係性があるのだろうか。 「2002年にカリフォルニア大学バークレー校の研究グループが、『楽器や運動などの技能の習得や向上には、目が覚める2時間前の最後の比較的浅い眠りが重要』という研究結果を発表しました。一晩7.5時間寝るとして、ノンレム睡眠とレム睡眠を繰り返しますが、起きる直前の浅い睡眠が運動技能向上を促す時間といわれています。起きる直前の浅い睡眠がとれていないと、努力してもうまくならない。だから睡眠はリズムや時間が大事といわれているのです」 日本でも睡眠への注目度が増している。矢野が世界的スリープコーチ、ニック・リトルヘイルズをゲストに招いたセミナーにはプロ野球やJリーグの関係者など約70名が参加した。 「イチロー選手、長友佑都選手がわかりやすいのですが、睡眠を重視しているアスリートは極端な好不調の波がありません。明確な目的、目標をもって、コンディショニングを重んじてルーティンを実践しているので、怪我も少ないのです」 レアル・マドリードやマンチェスター・ユナイテッドなどのビッグクラブの睡眠をマネジメントしてきたニック・リトルヘイルズは、トップアスリートの睡眠を管理・向上させることで、選手のポテンシャルを100%発揮させるプロのスリープコーチであり、世界で唯一の弟子が矢野である。 「ニックが変えたのは睡眠の常識。1990年代後半のマンチェスター・ユナイテッドでは、午前と午後の二部練習導入を進言し、リカバリールームを創設、昼寝を推奨しました。睡眠をパフォーマンス基準と捉え、価値を見直すのが目的です」