カルビー「本気の全社DX」で判明した意外な最適解、全社データをつなぐキモは現場社員のノウハウ
■定番商品はAIで需要予測 主に3~4カ月先の定番商品の需要予測にも、AIを活用している。開発までに約2年を要したが、ベテランの生産計画担当者が予測するような精度に近づいてきた。予測を基に、現場の業務を組み立てる活動を始めている。 さまざまな改善活動を通して気づいたのは、現場のスタッフが主導する重要性だ。「他社からデータ人材を送り込んでも効果はない。現場がわかる社員が課題意識を持ってデータを扱えるようにする。時間がないと困っている社員も多いが、やる気を引き出してDXを軌道に乗せていく」と森山氏は語る。
ノウハウはほかの工場にも展開し、最終的に2025年に稼働予定の「せとうち広島工場」に結集する予定。しかし湖南工場のメンバーは、なぜか新工場をライバル視して「広島工場を抜く」と意気込んでいるという。ITベンダーから教わる最初のフェーズを経て、社員自らが最適解を考えるようになった。 生産現場にとどまらず、マーケティングも進化している。ポテトチップスやじゃがりこなどのブランド別ではなく、ポテトチップスの「うすしお味の60グラム」「コンソメパンチの80グラム」など、単一商品ごとの費用構造を算出できるよう見直した。
商品別に、ばれいしょなどの原材料費、製造経費、間接コスト、値引きコスト、販売店に支払うリベート、社内拠点間の物流コストまで項目ごとにガラス張りにすると、社員もつかめていなかった特徴と課題が浮き彫りになってきた。今後は工場のデータと単品のコスト構造を紐付け、改善を進める予定だ。 ■全社最適のシミュレーションを探る 現在は、さまざまなデータを取り込んだ、シミュレーションツールの構築に着手している。「特定部門だけでなく、一気通貫で全社最適のオペレーションをやることがポイントになる」と田邉和宏CFO(最高財務責任者)は語る。
たとえば、かっぱえびせんを2つの工場で作っているとすると、1つの工場で生産したらコストがどう変わるかをシミュレーションできるようになる。物流費の上昇と生産コストの低減を天秤にかけて、どちらが効率的かを試算できる。 複数シナリオを比較することで、緻密なマーケティングが可能になる。これにより経営の意思決定を、生産から物流、営業、マーケティングまで、全社的な状況を見て素早く判断できるようになる。 「シミュレーションツールは仮運用を進めながら2025年にかけて構築し、2026年には実際の戦略立案に生かしていく」と、S&OP推進部の大江智之部長は語る。