【現地ルポ】千葉県酒々井町が人口増を他地域からの流入に頼る「ブラックホール型自治体」になった理由
「今、町長がトップダウンで進めているのが電柱の地中化です。ただ、町は役場前の町道などを10年かけて無電柱にする計画ですが、その対象となる路線はたった320mです。その後も駅前通りを無電柱にしたいようですが、このペースだといったい何十年先になるのか......。 また、20年ほど前、東関東道の酒々井パーキングエリア付近で3万4000年前のものとされる大規模な遺跡が見つかったのですが、町長はここに10億円近くの予算を投じて観光施設のようなものを造る計画もお持ちです。電柱の地中化も新たな箱物も不要なのでは?と感じている町民は少なくないはず」 小坂町長は、13年の町長選以降、3回連続無投票で当選し、町議会選のほうも無投票が多い。町民のひとり(70代・男性)がこう話す。 「酒々井町は、私もそうですが他県から転入してきた団塊の世代が中心の町です。もともとよそ者だし、この町に愛着があるか?と言われたら、そうでもありません。 息子や娘は結婚して子供もいるけど、ほかの町で家を買って『もう酒々井には戻らない』と言っています。だから無投票多選の町長が何をしようが、10期も居座る古参の議員が何を言おうが、正直、どうでもよくてね。ご勝手にどうぞと」 そんな冷めた町民がいる一方で、町に愛着や誇りを持っている人もいる。町内の農家の女性(60代)がこう語る。 「酒々井のいいところは、駅の周辺に都会の機能がコンパクトに集まっている一方で、そこからクルマで5分も走れば、初夏にはホタルが飛び交う里山や田園ののどかな風景が広がっていること。 こんな狭い町に、都会と田舎の両方の良さが凝縮されている。それに、隣の印西市は人口増にインフラ整備が追いつかなくて待機児童が増えてるけど、この町はずっとゼロよ」 この女性の口からは、とめどなく"酒々井の良いところ"が出てくる。 「あと、水道水は98%が地下水で、浄水場で処理された水は2%も含まれていないから、水道水がおいしいの。酒々井の水が気に入って、移住を決めた人もいるくらいでね。 無理に人口を増やそうとしたり、出生率を上げたりしなくても、酒々井の魅力に気づいた人に住んでもらえれば、それでいいんじゃないかな」 今回の取材を通して記者も「老後に住みたいな」と思うくらいには良い町だったので、落ち着いた所に住みたい方は移住を検討してみてもいいかもしれない。 取材・文・撮影/興山英雄