【現地ルポ】千葉県酒々井町が人口増を他地域からの流入に頼る「ブラックホール型自治体」になった理由
■「日本で一番古い町」 町の玄関口となるJR酒々井駅は東京駅から1時間ほどで着く。駅の改札口を抜けて目に入ったのは、「町制施行135周年! 日本で一番古い町」と書かれた巨大な横断幕だった。 同町は1889年に16町村が合併して誕生。町制施行以来、名称を変えず、合併もしなかった町としては群馬県長野原町と並んで最も歴史が長いのだという。 酒々井といえば、13年、町内に開業した「酒々井プレミアム・アウトレット」が有名だが、町としては町外から訪れる買い物客を「町内の観光施設や中心街に呼び込むことが課題」(町役場の職員)だったという。 そこで今年4月、町制施行135周年を機に「日本で一番古い町」を大々的にPRしようとしたが、その矢先に「テレビや新聞で『ブラックホール型自治体』と全国に報道されまして......」と担当課職員はうなだれた。 酒々井町の人口は約2万人。JR酒々井駅と京成酒々井駅が町の中心部にあり、ふたつの駅は徒歩10分圏内に近接。両駅をつなぐ駅前通りには、食品スーパー、銀行、クリニック、進学塾などが点在し、その周囲には3つの大規模な住宅団地が形成されている。ここに「人口の6割程度(1万人超)が居住する」(町議)というコンパクトさが酒々井町の最大の特徴だ。 では、なぜこの町がブラックホール型とされたのか? まず、18~22年の合計特殊出生率が1.05と、全国平均(1.33)を大きく下回り、東京都心部並みに低い。それに伴い、出生数はピーク時(06年)の191人から85人(21年)まで激減した。 一方、高齢化率(65歳以上の人口割合)は15.9%(05年)から32.7%(21年)まで高まり、死亡数(21年、186人)が出生数を大幅に上回る自然減の状況が続いている。 しかし、これを補ったのが酒々井町の地域性ともいえる20代、30代の"大量転入"だった。 ■ブラックホールが吸い込んだもの 酒々井町の若年女性人口の最大の供給源になっているのは、隣の印西市にある順天堂大学さくらキャンパスの学生だ。同キャンパスにあるスポーツ健康科学部には、教員などを目指す若者が全国から集まるが、1年次は全寮制で、全員が大学構内の学生寮に入る。 その後、2年次になると寮を出なければならないのだが、その主な転居先となるのが、大学から自転車で10分圏内の酒々井町だ。 「大学の友達はみんなこの町に住むし、家賃は1K・3万円程度と成田市や印西市より格段に安い。寮を出る順大生にとってはほぼ、酒々井一択です」(順大3年生)