【現地ルポ】千葉県酒々井町が人口増を他地域からの流入に頼る「ブラックホール型自治体」になった理由
■住みやすい町ではある 酒々井町に長く住もうと考える若い世代は少ない。 「毎年、順大の2年生が安定的に転入してきますが、同時に、卒業や就職を機に町を離れる学生も多い。航空会社で働く女性も転職や結婚を機に転出するケースが多く、町に定着することはほとんどありません。若者の転入と転出が、ほぼ同じ規模感で毎年繰り返されるから、当然、出生率の向上には結びつきません」(前出・不動産会社) 酒々井町に生まれ育った人も、大学進学や就職のタイミングで町を離れる。その後、「Uターンする人は少ない」(役場職員)のだという。 町内にはJRと京成線の駅があり、東関東自動車道の酒々井インターもある。町の中心部にはスーパーやドラッグストア、銀行、病院が集積する利便性の高い環境もある。子育てするには悪くない環境と思えるが、若者が定着しないのはなぜだろう。 「交通環境は良さそうに見えるかもしれませんが、JR酒々井駅には上りも下りも快速が1時間に1、2本しか来ません。また、高度成長期や00年代初頭に宅地開発が行なわれ、大規模な3つの住宅団地がありますが、狭い町なのでもはや宅地開発の余地はない、というのが酒々井の現状です。 酒々井インター付近の工業団地もすでに満杯で、新たな進出企業を受け入れる土地もなければ、町には工業用地を拡張する計画もありません。 言ってしまえば、酒々井は"開発し尽くされた町"で、今後の発展性が乏しいんです。人も企業も、昨年に人口増加率で日本一となり、今も大規模宅地開発をガンガン進めているお隣の印西市に奪われている、というのが実情だと思います」 町議会の関係者は、子育て支援の遅れも、若者や子育て世代が定着しない要因のひとつと指摘する。 「千葉県内では、船橋市、浦安市、八街市、神崎町など多くの自治体で学校給食の完全無償化を実施し、印西市も今年9月から完全無償化を実現させますが、酒々井町では第3子以降の児童・生徒にしか無償化していないのが現状です。 さらに言えば、子供への医療費助成も、高校生の通院を対象にしていないのは県内では酒々井町だけ。そのために必要となる予算額は、年間1500万円ぐらい。うちも財政状況が良好なわけではありませんが、その程度の額を予算化できないというのは、財政上の問題というより、町長や議員、役場職員たちの気概の問題だと思います」 現在、5期目(就任から19年目)の小坂泰久町長にも疑いの目が向けられている。