奈良美智が青春を過ごしたロック喫茶「JAIL HOUSE 33 1/3」が〈弘前れんが倉庫美術館〉へ。
コールタールの内壁が作品の世界へ深く没入させる「安住の地を求めて」の展示室では、ヤン・ヘギュの《ソニックコズミックロープー金12角形直線織》(2022)や鴻池朋子の《第2章 巨人》(2005)など、神の啓示や自然への畏怖から呼び起こされる感情の蠢きや、「ここではないどこか」を求め飛び立とうとする衝動を目の当たりにする。
本来並び合うことのないはずのオブジェクト同士が隣接し、流し掛けられた白い樹脂によって、一つの建造物のように見える金氏徹平の《White Discharge(建物のように積み上げたもの#11)》も、まるで一晩の大雪で街全体が一面が白く覆われる弘前の街並みに重なる部分がある。同じように、この展示室に並べられた作品群も、それぞれが別の意図で制作されたはずが、隣り合うことで新しい意味が生まれている。
この展覧会のタイトルにも関連している、塩田千春の《どうやってこの世にやってきたの?》は、2012年に塩田が2歳から4歳の幼児たちに向けて「母親のお腹の中でどのように過ごしたか?」や「生まれた時の記憶」についてインタビューを行った記録。記憶を継承する現代美術館の中で、幼い子どもたちがこの世界の扉をどのように開いてやってきたのか、カラフルで美しい記憶が拾い集められている。 また、その土地の住人から集められた古着の生地を用いて、スーツケースの中でジオラマを創り上げる、尹秀珍の《ポータブル・シティ:弘前》(2020)にも、弘前の街で受け継がれた記憶が閉じ込められている。 「記憶が集まる倉庫」の引力に呼び寄せられるように弘前に集まってきた作品たち。作品の扉を通して、また新しい世界が見えてくるかもしれない。
タグチアートコレクション×弘前れんが倉庫美術館 どうやってこの世界に生まれてきたの?
〈弘前れんが倉庫美術館〉青森県弘前市吉野町2-1。2020年開館。設計:田根剛。 TEL0172 32 8950。9時~17時(カフェ・ショップは~22時)。火曜休。観覧料は一般1500円。2025年3月9日まで。
photo_Satoshi Nagare text_Housekeeper