戦国時代が舞台なのに戦闘シーンが出てこない? 今村翔吾が挑戦した「新しい歴史小説」の形
独自の世界観で「サーガ」とも呼べる歴史小説を数々と執筆し、2022年には『塞王の楯』で直木賞を受賞した今村翔吾さん。最新刊『五葉のまつり』は石田三成ら五奉行を主人公に据えた「お仕事小説」のような作品だ。なぜ戦国時代にもかかわらず、戦ではなく裏方仕事をテーマにしたのか、今村さんに伺った。 【写真】『五葉のまつり』著者の今村翔吾さん いまむら・しょうご/1984年、京都府生まれ。2017年『火喰鳥 羽州ぼろ鳶組』でデビュー。2020年『八本目の槍』で吉川英治文学新人賞、2022年『塞王の楯』で直木賞受賞。Netflixでドラマ化が決定した「イクサガミ」シリーズなど著書多数
石田三成といえば「友情」
――『八本目の槍』に続き石田三成が活躍します。 僕が石田三成を題材にして描きたいテーマは、「友情」なんです。前作では秀吉に同じ小姓として仕えた7人の仲間から見た三成の姿を、本作は他4人の五奉行とともに国家の中枢で行う仕事を、中心に据えました。 三成ほど、激動の時代の中で環境や立場が大きく変化する人生を歩んだ人はいません。多彩な接点でバラエティ豊かな友人を持ったと考えています。いわば前作が学生時代、本作は社会人になってからの仲間ですね。 刀狩りや太閤検地をはじめ、大茶会や瓜畑遊び、花見など、5篇で描いたのは裏方ともいえる地味な仕事です。僕は常に自分に何かしら負荷をかけ、新しい魅力を備えた小説を書くのが信条。今回は、「戦がないのにエキサイティングで面白い歴史小説」に挑戦しました。 ――三成を視点に、5篇で五奉行それぞれがクローズアップされます。 本作は人物というより、「仕事」自体を主役にしたかった。そのため三成1人の視点でシンプルに、仕事そのものや関係性の変化を描きました。今の世の中でも会社員や公務員として、毎日勤勉に、善良に働いている方々はたくさんいます。たとえば鉄道の路線にしても計画を立て、線路を敷き、開通した後は夜中にメンテナンスなど、表には現れにくい仕事が数多くあります。その仕事の素晴らしさを歴史小説のエンタメの中で伝えたかった。 本作の仲間である五奉行たちは、出身地も年齢もバラバラであり、プライベートでは仲良くない。彼らは全員が何がしかのスペシャリストであり、キャラクターの癖も強い。けれど、そんな人たちが仕事で集まった時、絶大なパワーを発揮します。