未踏峰を思い描いて活動した一年 【日本山岳会ヒマラヤキャンプ登山隊2023撮影記】♯02
ヒマラヤで必要なこと
ほかにはヒマラヤでは必須となる氷河歩行、クレバスレスキューのトレーニングも行なった。私たちは夏でも雪のある白馬の大雪渓に向かった。 ヒマラヤでは多かれ少なかれ氷河上を移動する必要が出てくる。氷河は、「氷の河」と書かれることでもわかるように、巨大な氷の塊が日々、谷の下流に向かって少しずつ動いている。氷河上にはその動きによってできたクレバスという氷の裂け目が点在している。拳ほどの幅のものから、10mを超える幅のものまでさまざまだ。基本的にはクレバスを避けて進路を決めていく。しかし、厄介なことにそのクレバスが雪に隠れて見えないことがある。その雪の上を歩いてしまえば落とし穴に落ちるように転落してしまう。そのリスクを回避するため、転落した仲間を救助するためのトレーニングになる。 このトレーニングには2023年以降にヒマラヤに挑むヒマラヤキャンプメンバーも加わって実施した。山に入ってからは、お互いが助け合う必要がある。メンバーとの技術の共有というのも重要な要素だ。
出国までに残された時間
出国が迫ってくるとトレーニング以外の準備もいよいよ佳境に入ってくる。大きなものとしては、食料と装備になる。食料は55日間の遠征のうちベースキャンプより上で食べるものを中心に用意をした。ネパールにおける登山隊の詳細はまた次回触れるが、ベースキャンプでは3食の食事を用意してもらうことができる。そのため、必要になるのはキャラバン中のちょっとした行動食とベースキャンプより上で登山を行なう際にテントで食べる分の食事だ。それらは基本的に日本から持参をしている。 内容としては、日本で普段の登山中に食べているものと大きく変わらない。行動食はスナックやアミノ酸系のゼリーなど、テントでの食事はアルファ米やジフィーズ、インスタント味噌汁など。ただし今回はネパールということもあり、食べ慣れたものや日本を感じるものを選んだ。たとえば、松茸のお吸い物や、抹茶ラテの粉末など。テント用の食事として持ち込んだうどんの乾燥麺はさっぱりとした味で、高所において食欲が減退した際も食べることができた。これが正解というものが決まっているわけではないが、やはり日本の味を感じられるものがあると気持ちが落ち着くのでおすすめである。 装備に関しては、ヒマラヤキャンプの場合、花谷さんがネパールのエージェントオフィスに確保してくれているヒマラヤキャンプの共同装備を活用させてもらうことができた。そのため、テントや寝袋、クライミングギア、電装品はそこから使用させてもらっている。私たちが日本から持参したものは、食料と個人の登山装備が主になる。 ヒマラヤ登山というと上下のウエアが繋がったダウンのワンピースなどを想像するかもしれないが、6、000mでは日本の3、000m級の厳冬期装備とほとんど変わらない。ベースレイヤー、ミッドレイヤー、ハードシェル、ダウンの組み合わせが基本となり、人によってインサレーションウエアで調整をする形だ。靴に関しては、今回スポルティバのダブルブーツであるG2を全員が持参した。 登攀に関しては、ハーネス、アイスアックス、クランポン、ビレイ器具を個人装備として持参した。アイスアックスはペツルのクオーク、クランポンも同社のダートを用意した。装備を統一したのは、予備のピックなどをだれの装備でも使用できるようにするためだ。 今回私たちが選んだ6、000m級の山では高所用に特別なにかを用意するということはほとんど必要なかった。日本と同じ装備で挑めるため、日本での雪山経験がそのまま活きてくるということでもある。 出国5日前になると富士山で最後の高所順応トレーニングを行なった。日本において高所順応となるとやはり日本一標高が高い富士山がもっとも適している。高所に体を慣らすことが目的となるため、富士山では山頂滞在時間を伸ばす必要がある。山頂で1泊できればなお良かったのだが、スケジュールが詰まっていたこともあり日帰りでの順応になった。 私たちはツエルトで3時間ほどの仮眠をとった。睡眠をとることで呼吸が浅くなり、より高所に近い状態に近づけることができる。高所順応はもちろん現地で行なうこともできるのだが、限られた日数を有効に使うために事前順応という形をとった。初めてのヒマラヤ登山をするにあたってより良い状態で挑みたかったのだ。ここまで来るとあとはもうネパールに行くだけだ。わからないことが山積みの状態だったが、あとは現地でできることをやっていこうと心に決めフライトを待った。
PEAKS編集部