未踏峰を思い描いて活動した一年 【日本山岳会ヒマラヤキャンプ登山隊2023撮影記】♯02
ヒマラヤ前の最後の冬
当初、私たちが目指す2座のうちサトピークは登攀要素もあると考えていた。そのため、3人が揃ってからすぐの冬は錫杖岳や八か岳でクライミングを交えた雪山登山を行なった。クライミングを交えた理由としては、もちろんクライミング能力の向上も目的にはなるのだが、基本的なロープワークをしっかりと体に染みつけるという目的があった。高所に上がれば酸素は薄くなっていき、普段以上の力は発揮できない。でも、高度障害だろうと、疲れていようと安全は確保し続けなければならない。たったひとつのロープワークを誤るだけでも命取りになってしまう。高所だからこそ、メンバーそれぞれが確実にロープワークができるようにロープを繋いでトレーニングを重ねた。 また、現地で行動時間を長くとる可能性も考えて、夜間登攀も行なった。冬場の寒冷で陽の光がないなかでも不安なく動くためには、経験するしかないと考えた。私は、登山は精神的な部分の影響がとても大きいと考えている。寒さや夜間に対する恐怖心は過去に経験があるかないかで大きく変わる。「この気温なら問題ない、夜間でも動き続けられる」そう思えることができると体の緊張、精神的な不安はかなり改善される。だから、ヒマラヤにおいて想定される行動は、日本にいる間にメンバー全員で共有しておくべきという考えになった。冬は雪山の実践的なものを中心に行なったといってもいいだろう。
雪のない季節をヒマラヤのためにすごす
私たちは秋のヒマラヤシーズンに登山をするため、冬のトレーニングを終えると、春から夏のトレーニングに入っていった。春から夏は縦走やクライミングで持久力や登攀力を上げるトレーニングを重ねた。クライミングはメンバー3人とも好きということもあり、瑞牆山でのマルチピッチクライミングを行なった。カムと呼ばれる道具を使って、岩の割れ目に自らプロテクションをセットしていくスタイルのクライミングだ。トレーニングとはいえ、やはり好きなことを交えて行なうと楽しむことができた。ヒマラヤに向けてトレーニングを積むことも大切だが、そのなかで山を楽しめているか、それもまた重要だと思う。 クライミング以外では八か岳全山縦走も行なった。ヒマラヤに向けてそれぞれ山に入る機会が増えていたこともあり、例年よりも体力がいい具合に仕上がってきていた。コースによって少し変わるが八か岳全山は編笠山から蓼科山まで約35kmである。これを日帰りの設定で行なった。日帰りとなるとそれなりに歩ける人でないと難しい距離にはなる。疲れていても歩き続ける、それを実践できる良いトレーニングになった。登山では登頂が折り返し地点となる。登って必ずキャンプに戻る、そのためのトレーニングだと感じていた。