「大腸がん」のスクリーニング検査は何歳から受けるべき? 海外論文で学ぶオススメの開始年齢
大腸がんとは?
編集部: 今回の研究対象となった大腸がんについて教えてください。 甲斐沼先生: 大腸がんは、直腸と結腸からなる大腸に発生するがんで、良性のポリープががん化して発生するものと、正常な粘膜から直接発生するものに分類されます。日本人はS状結腸と直腸にがんができやすいと言われています。大腸の粘膜に発生した大腸がんは大腸の壁に深く侵入し、やがて大腸の壁の外まで広がり腹腔(ふくくう)内に散らばります。さらに、リンパ節転移をしたり、血液の流れに乗って肝臓、肺など別の臓器に遠隔転移したりします。 大腸がんの症状について、早期では自覚症状はほとんどありません。代表的な症状として、血便や下血がみられます。また、進行してくると腸閉塞となり、便は出なくなり、腹痛や嘔吐(おうと)などの症状が起こります。⼤腸がんは男性では11⼈に1⼈、⼥性では13⼈に1⼈が⼀⽣のうちに⼀度はかかると言われています。
今回の研究内容への受け止めは?
編集部: オーストリアのウィーン医科大学らによる研究グループが発表した研究内容への受け止めを教えてください。 甲斐沼先生: 過去30年間をみると、欧米諸国では55歳以上の大腸がんの発症率と死亡率が低下しており、これは大腸がんスクリーニングの受診率が高いことが一因だと考えられていました。その一方で、より若い年代の大腸がんの発症率と死亡率の増加が懸念されていましたが、これまで大腸がんのスクリーニングの対象年齢を何歳まで下げるべきかについては明確なエビデンスがありませんでした。 若年成人の大腸がん発症率は上昇しているものの、無症状者、特に50歳未満の前駆病変に関するデータは不足している現状がありました。今回、オーストリアのウィーン医科大学らの研究グループは、無症状の20歳以上に施行された約30万件の大腸内視鏡検診データから前駆病変の有病率と腺腫1件を発見するのに必要な検診件数、および国の統計データから30年間の大腸がん発症率の推移を、それぞれ年齢層別および男女別に検討しました。その結果、50歳未満で大腸がんの発症率が上昇しているのは男性のみで、若年層では男性に絞った検診の前倒しが重要であることを発表しています。 今回の研究結果を通じて、腺腫の有病率は50歳未満、50歳以上とも上昇していましたが、進行腺腫の有病率は50歳未満では上昇、50歳以上では低下していることが判明したことから、検診の開始年齢を検討する際には、受検者の性別も考慮すべきであると考えられます。今回の知見に基づけば、男性では40歳から、女性では50歳または55歳からの開始が良いだろうと考察されます。