日本最高齢88歳のジャズ・シンガー齋藤悌子「夫を亡くし、音楽から離れて15年。喫茶店でジャスを聞いて自然に体が動き『あぁ。また歌わなきゃ』と」
◆目標は97歳まで歌い続けること CDを発売したおかげで、疎遠になっていた知人や親戚とも再会できました。なかでも嬉しかったのが、兄とのエピソードです。 4歳上の兄は、沖縄本島で牧師をしていました。本土復帰前の1966年、米軍政下の沖縄を統括する高等弁務官の就任式で祝福の祈りを捧げるよう依頼された兄は、「(彼が)最後の高等弁務官となり、沖縄が本来の正常な状態に回復されますように、切に祈ります」と、祈りの言葉を述べたそうです。 この時代に米軍の最高権力者の前でそんなことを言うなんて、ある意味とんでもないこと。そんな兄ですから、基地で歌っていた妹に対して、複雑な気持ちを抱いていたのではないでしょうか。兄は私の歌を一度も聞いたことがなかったんです。 その兄が、一昨年那覇で行ったCD発売記念ライブに、義姉と一緒に来てくれて……私が歌い終えると、立ち上がって大勢の観客の前で、いきなりハグしてきたんです。本当にびっくりしました。 兄はきっと、私が「ダニー・ボーイ」に込めた思いを理解してくれたのでしょう。どこの国の人であれ、戦争に行くというのが、どれほどむごいことなのか――。 ちなみに兄は実子のほか、ベトナム孤児を3名と、米兵と沖縄の女性の間に生まれた子どもを、わが子として育てました。 昨年5月、賛美歌で平和を訴える「普天間基地ゲート前でゴスペルを歌う会」に兄と一緒に参加し、ともに歌ったのです。こんな日が来るなんて、ほんと、人生って何が起きるかわからないですね。 目標は、97歳まで歌うこと。沖縄では97歳で心が子どもに返ると言われており、風車を飾り付けたオープンカーで集落を巡る「カジマヤー」というお祝いをするんです。それまではなんとか、がんばりたいわね。 (構成=篠藤ゆり、撮影=木村直軌)
齋藤悌子
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