海でのエサ探しを仕切るタコ。パワハラ上司っぽくパンチしてくる
タコパンチ、笑う。 タコは魚類のリーダー的な存在ですが、部下たちから愛されるよりも恐れられる上司みたいですよ。タコと魚のチームによる水中での捕食活動を観察した研究結果によると、タコは表向き味方であるはずの魚たちにタコパンチを飛ばすなど、チームの秩序を守るためには体罰もいとわないパワハラ上司の一面を持っているようです。
タコと魚の集団ハンティングの仕組み
多くの動物は他の動物と協力して狩りをします。一般的に孤独を好むと考えられているタコでも、最近の研究では、狩りの際に協力しあうケースが多く見られるようになってきました。 ただ、チームを組む相手はタコではなく、種が異なる複数の魚だとのこと。海洋生物学者は、こういった行動をとる魚たちの関係性の仕組みについて、理解を深めつつあります。 ポルトガルにあるリスボン大学海洋・環境科学センターのエデュアルド・サンパイオ氏が率いる海洋生物学者チームが、タコやヒメジ、ハタ科の魚など、さまざまな魚類からなるグループを観察したのは2018年のこと。これらの魚たちは、小さい甲殻類や魚、軟体動物をエサとして摂取する共通点から、それぞれがチームの中で効率的に捕食活動を行なうための役割を果たすというWin-Winな関係を築いてきました。 その後、Nature Ecology & Evolutionに掲載された研究で、サンパイオ氏はタコがチームの中で情報収集要員として行動していると発表。タコはエサの潜伏場所を見つけ、腕を使って貝殻をこじ開けたり、狭い場所からエサを追い出したりするのだそう。チームを組む魚たちは、タコのおこぼれをもらうことや、タコが追い出した獲物を食べることが可能になります。
和を乱す魚にはタコパンチが乱れ飛ぶ
こういった行動をみると、タコは独裁者ではなさそうですが、力関係としてはタコが圧倒的優位にありそうな感じがします。 その証拠に、タコは自分の狩り方にそぐわない行動をとる魚がいると、研究者が「一緒に狩りを行なう特定のパートナーに対する1本の腕からの強烈な攻撃」と定義するタコパンチを放って、その魚を追い払うのだとか。 研究チームが撮影した上の動画には、狩りの最中にタコがハント仲間の魚にパンチを飛ばしまくる様子が映っています。正確無比、そして無慈悲。 タコパンチが確認されたのは今回が初めてではありません。今回と同じように、タコといろんな種類の魚の集団ハンティングを観察したサンパイオ氏も参加した2021年の研究でも、タコは周囲の魚たちにパンチを飛ばしています。 タコが何を考えているのかは知るよしもありませんが、すぐに好結果が出ない状況でタコが攻撃的になる1つめの理由として、研究者は狩りのルールを乱した者に懲罰を行なうことで、より協調的な行動をとるように促しているという仮説を立てています。 もう1つの理由がおもしろくて、タコがパンチを飛ばすのは鬱憤(うっぷん)晴らし以外の何物でもない可能性もあるとのこと。タコ部長、それはパワハラというか暴力です。 今回の研究結果は、異なる種類の魚の複雑な関係を以前の研究よりもさらに掘り下げているといいます。例えば、ヒメジは獲物がいそうな場所を偵察するのが得意で、タコを誘導するような行動をとりますが、最終的にいつ移動するかを決めるのはタコだったそうです。 また、チームの秩序を守るために攻撃的な行動をとるのはタコだけで、魚たちがタコに攻撃を加えることはないのだとか。でも、魚同士がなんらかの理由で争いを起こした場合には、別の魚がタコパンチのような目的で攻撃を加えざるを得なくなることもあるとサンパイオ氏は論文で述べています。 チームワークがあるのかないのか、いつも同じメンバーで狩りを行なっているのか、チームで狩りをした方がみんなのおなかがいっぱいになるのかどうか、いろいろすごく気になります。 Reference: Eduardo Sampaio / NPG Press / YouTube
Kenji P. Miyajima