「没頭」をテーマに始まった阪神キャンプ…若虎の道を照らす球児流の「対話」とは
藤川監督が自身の故郷でもある高知県で行われている秋季キャンプで、指導者としての一歩を踏み出した。一心不乱に野球に打ち込むという思いを込め、テーマは「没頭」。新監督が目指すチームの方向性を探った。 【写真】選手やコーチ陣と話す藤川監督。キャンプ中は対話を欠かさない
前監督と対照的な動きも
澄み渡る青空の下、阪神の新監督と主砲が笑顔で言葉を交わしていた。
「没頭」をテーマに、高知県安芸市で1日に始まった秋季キャンプの4日目。藤川監督が、打撃練習中の佐藤輝に歩み寄り、しばらく談笑した。佐藤輝は内容こそ明かさなかったが、「こちらからも思ったことを言えそう。もっと話し合っていい方向に持っていきたい」と表情は明るかった。
2020年に現役引退した藤川監督は、21年に入団した佐藤輝とは接点がほぼなかった。投手陣では、主力の村上、来季3年目の門別らとも現役期間が重なっていない。そんな選手たちに声を掛け、野球談議に花を咲かせる姿は、キャンプの日常になってきた。
選手と直接話すタイプではなかった前監督の岡田彰布・オーナー付顧問(66)とは対照的な動き。44歳の指揮官は「技術を引き上げるためにも、何を考えているのかを知る必要がある」と力を込める。そのために重視するのが「対話」だ。
22年のドラフト1位・森木は「必ず戻ってこられる」という監督の一言をかみしめる。高知高(高知)から入団した21歳の本格派は不振に悩むが、監督直々に激励されるとともに、フォームの修正点を指摘され、「僕の考えていたことと同じ」と迷いが消えた。テイクバックと左足を着地するタイミングを合わせる課題に熱心に取り組む。
コーチ陣も一人一人と
監督の意図はコーチ陣にも浸透する。新任の小谷野打撃チーフコーチは「(シーズン中の)映像を見て、個々に合ったアドバイスをしたい」と言い、身ぶり手ぶりを交えながら、打撃陣一人一人と会話を重ねる。
通算7年間で1本塁打の島田は「バットは振れる。魅力は消しちゃダメだ」と助言され、第1クールの紅白戦で右翼ポール際へ大飛球を放った。惜しくもファウルとなったが、今季までの当てにいく打撃ではなく、「しっかり振るのは僕も取り組みたかった」と納得の表情。コミュニケーションが新たな可能性を引き出した。
藤川監督は「僕は大きな会社の社長ではない。限られた人数の中で、相談事も起きる。(話すのは)普通のことですよ」と語る。若き指揮官にとって、対話とは道を照らすかがり火のようなもの。それを手がかりに着実に前へ進んでいる。 (細田一歩、豊嶋茉莉)