石川祐希はパリ五輪の「重力」から解き放たれるか 強豪ペルージャでの挑戦が始動
【「勝負どころで戻ってくる」】 ただ、彼は実感を込めてこう洩らしている。 「勝つのが難しいのは、やっている選手が一番に感じています」 背負っているものが透けて見えた。 8月2日、アメリカ戦。石川は思わぬ不調に陥る。2セット目、日本の屋台骨を背負う男が、ベンチに下がらざるを得ないほどだった。日本は石川なしで25-18と第3セットを勝ち取って、準々決勝進出を確定させた。 「キャプテンを信じている」 1-3で敗れた試合後の取材エリアでは、多くの選手が石川を気遣い、大事に思うメッセージを送っていた。緊急事態を「全員でリカバリー」という強い意志表示だった。 ただ、本来の石川ではなかったのは事実だ。 「プレーが悪かったので(ボールを)託してもらえなかった」 石川自身、そう振り返っていた。「金メダル」への重圧が彼の体を縛りつけたように映った。 アメリカ戦後、髙橋藍は興味深い話をしている。 「石川選手の(抱える)プレッシャーはあると思います。自分たちも石川選手の背負っているものをサポートし、"全員で戦う"ってことを課すべきなのかなと。でも、自分たちは『石川選手は勝負どころで(トップフォームで)戻ってくる』と信じています。今までもそうでしたから。石川選手のことを(どうこう)考えるべきではない。あくまで、それは石川選手がやることなので」 髙橋は石川を信じきっていた。気遣っていても、馴れ合いはない。ハイレベルな信頼関係だった。バレーボール選手はコートで正当性を示すしかない。それこそ、最強と言われるチームの絆だ。 それだけに、準々決勝で石川の活躍によりチームが勝っていたら、未曾有の化学反応を起こしていただろう。 8月5日、イタリア戦。序盤から、石川はレシーブ、スパイクと大車輪だった。得意のサーブを際どいラインに打ち込み、エースを獲得。「エースに託す」という空気が漲った。 特筆すべきは、石川の好調さが他の選手の実力も引き出した点だろう。リベロの山本智大のディグ、セッターの関田誠大のトスが、神がかる。ミドルブロッカーの山内晶大のクイックも決まり、髙橋が3枚のブロックを打ち抜いて調子を上げていった。