仕事先の大失敗で苦情連発…予定通りに行動できない「発達障害グレーゾーン」30代女性の「生きづらさ」
自閉スペクトラム症:ASDが持つ特性
「アスペルガー症候群」と「自閉症」は、コミュニケーションやイマジネーション、社会性に問題があり、対人関係が築きにくい、特定のものに強いこだわりを持ちすぎるなどの特性があります。 両者は広汎性発達障害の中の「アスペルガー障害」および「自閉性障害」として、別々に分類されていました。しかし、新たに発表された「DSM─5」は、アスペルガー症候群と自閉症とを区別せず、「自閉スペクトラム症」という1つの診断名にしています。 これまで両者の違いについて議論されてきたわけですが、現在はこの2つには境界線がなく、基本的な特性(コミュニケーションやイマジネーションの障害、強いこだわりがあるなど)は同じで、軽症(アスペルガー障害)から重症(自閉症)へのスペクトラム(連続体)と捉えられています。 とはいうものの、アスペルガー障害という言葉は一般的に浸透していて、いまだにネットなどで出てきます。そのため、大人になってから自分はアスペルガー障害だと思って受診する人のほとんどは、軽度の自閉スペクトラム症といわれています。軽度といっても本人が抱えている困難は軽いものではありません。 自閉傾向が強い重度の場合は、学童期以前からアイコンタクトがない、言語に遅れがある、おもちゃの遊び方が独特などの特性が現れるため、早い時期から療育を受けています。しかし、軽度の場合は、大学生(主に就職活動)や社会人になって初めて、環境に適応できない状況に悩むことになります。そのため、原因や対処法が分からないまま、困難を抱え続ける可能性もあるのです。
ADHD(不注意優位型)が疑われるGさんの事例
Gさん(女性30代)は、小学生の子どもと夫との3人暮らしで、現在は事務職の契約社員として働いています。Gさんの幼少期からの悩みは、片付けが苦手でとにかく捜し物をしている時間が長いこと、そして先延ばしにするクセがあることです。 もともと地理が得意で旅行好きなGさんは、大学卒業後は大手の旅行会社に就職しました。1年目に見習いとしてバスツアーの添乗員などを経験しましたが、失敗の連続でツアー客だけでなく、バス会社や宿泊先からも苦情がくるほどだったそうです。 添乗員は、予定が組まれたツアーをお客様の状況などを見ながらスケジュール通りに実行していく必要があります。 Gさんは旅先の食堂や土産屋などに入るたびに、添乗員用の行程表をどこに置いたか忘れて、何度もバスに確認しに戻っていました。うっかり集合場所を間違えてアナウンスしてしまい、お客様を混乱させることも度々ありました。 結果的に旅行会社は2年も経たないうちに退職することになり、その後は結婚して派遣社員で事務職などを数社で経験したそうです。しかし、派遣の事務職の仕事でもPCのフォルダ整理や名刺整理が得意ではなく、また不得意なことや面倒なことは先延ばしにするところがありました。 徐々に仕事に影響が出て、上司から注意を受けることが多くなり、派遣契約の延長をしてもらえなかったこともあったそうです。 …その後、Gさんは別の派遣先で比較的ゆるやかな職に就き、一時は落ち着きを取り戻したましたが、PTAの役員に抜擢され思いがけない窮地に立たされます。 そんなGさんがとった意外な行動をとります。その詳細はつづく後編記事の<先輩の指示通りに動けない…「女子トーク」にも溶けこめずに孤立した「発達障害グレーゾーン」の女性が自分らしく働けるまで>でお伝えします。
舟木 彩乃(ストレスマネジメント専門家・公認心理師)