「若返った日本人」雇用の質という経済界の課題
およそ5年に1度、政府は「高齢社会対策大綱」を閣議決定している。1995年に施行された高齢社会対策基本法において、高齢社会の目指すべきあり方を明示した大綱の策定が義務付けられた。高齢社会対策の検討会議で大綱案を作成した後、1996年に第1回大綱が閣議決定されている。今年9月13日に、第5次の大綱が閣議決定された。 大綱案を作るための「高齢社会対策大綱策定のための検討会」(2024年2月15日~8月5日:計8回開催)に、私は委員として参加していた。ここでは、大綱の中で注目すべき点を取りあげよう。
46ページに及ぶ大綱の本文の中で、最も重要な文章を挙げよと言われれば、1ページの次を挙げることになる。 我が国の平均寿命は世界で最も高い水準となり、高齢者の体力的な若返りも指摘されている。また、65歳以上の就業者等は増加し続けており、その意欲も高い状況にある。このような状況を踏まえれば、65歳以上を一律に捉えることは現実的ではない。年齢によって、「支える側」と「支えられる側」を画することは実態に合わないものとなっており、新たな高齢期像を志向すべき時代が到来しつつある。
ここに「若返り」という、今回の大綱のキーワードがある。この「若返り」は、3ページでも繰り返される。 医学的にも、様々な科学的根拠を基に高齢者の体力的な若返りが指摘されて久しい。 この文章には注書きがあり、そこには、次がある。 日本老年学会・日本老年医学会「高齢者に関する定義検討ワーキンググループ報告書」(平成29年3月)、日本老年学会「高齢者及び高齢社会に関する検討ワーキンググループ報告書」(令和6年6月)
日本老年学会・老年医学会による2017年(平成29年)ワーキンググループ報告書(以下、2017年WG報告書)には 近年の高齢者の死亡率・受療率、身体的老化、歯の老化、心理的老化など、心身の老化現象の出現に関する種々のデータの経年的変化を検討した。その結果、現在の高齢者においては10~20 年前と比較して加齢に伴う身体・心理機能の変化の出現が5~10 年遅延しており 「若返り」 現象がみられている。特に、従来、高齢者とされてきた65 歳以上の人でも、65~74 歳のいわゆる 「前期高齢者」 においては、心身の健康が保たれており、活発な社会活動が可能な人が大多数を占めている。