どうなるNext GIGA【4】今も議論が続く教育データと生成AIの利活用
文部科学省が「初等中等教育段階における生成AIの利用に関する暫定的なガイドライン」(以下、ガイドライン)を出してから1年あまりが過ぎ、その間にも生成AI(人工知能)は驚異的なスピードで進歩を続けている。こうした状況の変化に対応してガイドラインを改定するため、文部科学省は2024年7月に「初等中等教育段階における生成AIの利活用に関する検討会議」(以下、検討会議)を設置。2024年内に改訂版を取りまとめる方針だ。 【画像】すべての図版を見る
リスクをどう評価するか
検討会議では生成AIの利活用に前向きな意見が多い一方、生成AI特有のリスクや事業者が提供するサービスの透明性・信頼性に対する不安の声もある(図1)。国立情報学研究所情報社会相関研究系 教授の新井紀子氏は、「生成AIのハルシネーションは本質的に解決できず、教育現場で正しく活用するにはファクトチェック力が不可欠。だが、児童・生徒にその力はなく、多忙な教員がファクトチェックするのは事実上不可能だ」と指摘する。 これに対し、東京学芸大学附属小金井小学校の教諭で、早くから生成AIを活用した授業を実践してきた鈴木秀樹氏は、「生成AIを経験して特性を知っている児童とそうでない児童では、AIを使うときの態度が違った」という経験を語った(図2)。それを踏まえ、「初等中等教育段階では多くの体験を通じて生成AIに対する冷静な態度を養うべきだ」と主張した。
データ活用の共通基盤がない
教育データは1人1台端末によってもたらされる有益な情報で、その利活用はGIGAスクール構想の成果として重視されてきた。デジタル庁と文部科学省ほか2 省は2022 年1月、合同で「教育データ利活用ロードマップ」を発表。デジタル庁は、ICT 環境整備や生成AIのような技術の進化を踏まえ、2024 年度内をめどにロードマップを改定する。 2024 年8 月には、文部科学省が「今からはじめる!NEXT GIGA 教育データ利活用のステップ(β版)」を作成して教育委員会に示した(図3)。ここで主に取り上げているのは、データを集約して可視化する教育ダッシュボードだ。最近では、横浜市が2024 年6月から市立学校の全校で運用を開始した「横浜St ☆ dyNavi」において、大規模な教育ダッシュボードを実現した(図4)。 一部の先進的な自治体で教育ダッシュボードの実用化が広がりつつある一方で、自治体の金銭的・人的なリソースの負担が課題になっている。同じような機能の教育ダッシュボードであっても、自治体ごとに開発していて効率が悪い。 国の「教育データの利活用に関する有識者会議」で委員を務める奈良教育大学 准教授の小﨑誠二氏は、「教育データの効果的な活用には、共通の分析基盤を整備する必要がある」と訴える。分析や可視化など共通する部分は、個人情報保護やセキュリティも担保したプラットフォームを国が用意すべきではないだろうか。 初出:2024年10月14日発行「日経パソコン 教育とICT No.30」
文:江口 悦弘=日経パソコン