Chip Tanakaが語る「解き放たれた」最新作、レゲエからの影響、ピラティス、能や日舞への強い興味
ゲームソフト「MOTHER」「MOTHER2」「メトロイド」「バルーンファイト」「スーパーマリオランド」 などの音楽を手掛け、「ポケットカメラ」の商品開発などにも携わりながら、作編曲家としてもTVアニメ、映画「ポケモン」の楽曲の多くを手掛ける、たなかひろかずによるアーティスト名義の1つ、Chip Tanaka。1980年より任天堂のサウンドエンジニアとしてチップサウンドをゲームミュージックとして世界に広げたオリジネーターでもあるChip Tanakaが、4thアルバム『Desatar』をリリースした。「身を解き放つ」「自由になる」を意味するスペイン語をタイトルに冠し、新曲5曲と人気が高い既存曲のライブ用トラック4曲を収録した本作について、Tanakaの音楽についての考えについて話を聞いた。 【写真を見る】Chip Tanaka ―過去のインタビューを拝見すると、Tanakaさんはとても熱心な音楽リスナーだったことが伝わってきます。洋楽を中心に、ロックからレゲエ、オルタナミュージックなど幅広く聴かれてきたんですよね。 Chip Tanaka:恐ろしいぐらい聴いてきた気がします(笑)。普通の人はどうかわからないですけど、4歳くらいから聴いていて。どんな音楽を聴いてきたかエクセルの表にしてまとめているぐらいです(笑)。 ―最初はモンキーズを聴き込んでいたそうですね。 Chip Tanaka:洋楽で自ら買ったレコードはモンキーズなんですけど、1番記憶が古いのはフランク永井の「有楽町で逢いましょう」ですね。多分、自分の生まれた頃にヒット曲として流れていたと思うんです。上京した時、有楽町のラーメン屋で真っ先にラーメン食った記憶があります(笑)。 ―最近、Xのポストでアース・ウィンド・アンド・ファイアーの「That’s the Way of the World」について、「自分の音楽史の中では別格の曲」「当時の自分の精神、環境すべてがこの曲に宿ってる、みたいな、そんな気持ちにさせられる」と書かれていましたよね。 Chip Tanaka:自分が若く1番貧しい時代に流行った曲なんですよ。19歳頃だったと思うんですけど、その時、僕は大阪にいて、バンドをやっていた。自分の当時の生活も染み込んでいるというか、曲に乗っかっているんですよね。あの曲はカバーもたくさんあるんですけど、自分のプレイリストにはカバーが10曲ぐらい繋がって入っていて。 ―カバーまで網羅しているんですね。 Chip Tanaka:どの人のヴァージョンで聴いても当時を思い出すんです。当時の自分の未来に対する覚悟とか、失恋の記憶とか、そういうのがごちゃ混ぜに染みついているんですよね。中途半端な自分やったなと思いつつも、その中途半端だった時の方が儚いものとか、切ないものを敏感に感じていた気がするし。それって、若い時だからこその感情だったかもしれません。歳を重ねてからの自分は、AC/DCみたいに、わかりやすくエンタメに振り切った音楽を純粋に楽しむ傾向があるんですけど、若い頃はもっとヒリヒリするような感覚の音楽をたくさん聴いていた気がしますね。 ―「That’s the Way of the World」はその原点の曲でもある、と。 Chip Tanaka:アースの「That’s the Way of the World」は、子供はもともと純粋なこころ(ハートオブゴールド)を持って生まれてくるけれど、世間がそれをダメにしてしまう、というような歌詞もあって。やっぱりみんなに支持されるだけあって、歌っている内容に当時すごく共感しました。 ―そうした豊かな音楽体験と同時に、黎明期のゲーム音楽を作られてきたのが、意外性がある部分でもあります。 Chip Tanaka:それは、たまたま任天堂という会社に熱心な音楽好きが入社したってことだけなんですよね。当時ただの京都の一企業が、その後世界的な企業に成長したから、そんな風に言われるけれど。当時はレゲエも好きやったから、ゲーム音楽の中にレゲエのスライ&ロビー風のリズムが入っているのにびっくりされたり、ダブとかの要素が入っていたのが、後々取材とかで言われたっていうだけなんですよ。もし僕が作曲家としてだったら、多分任天堂に入らなかったと思う。当時、メーカーが作曲家を雇うときは、ちゃんと音大を出ているとか、そういう条件があったと思うんです。僕はたまたまエンジニア枠で入りました。そもそも当時はレゲエ好きなんて少数派だったと思うんですね。だから、まぁ当時としたら珍しい趣味の社員だった、という、ただそれだけの事な気がします。