Chip Tanakaが語る「解き放たれた」最新作、レゲエからの影響、ピラティス、能や日舞への強い興味
ちょっと解放されて自由になったっていう意味も込めたかった
―そんなChip Tanakaとしての最新作で4枚目のアルバム『Desatar』が、リリースされました。前作『Domani』の時に作ったジャケット候補が起点になっているんですよね。 Chip Tanaka:前作でいくつかジャケットの候補を描いてもらって、その中から今回のジャケットを選んだんです。『Domani』の時は曖昧な感じのジャケットにしたかったので、それを伝えて何枚か描いてもらって。今作に使っている絵はちょっと明確すぎかなと思ったんですけど、ずっと気になっていて。この絵が今作を作る上での起点になっているんです。 ―ジャケットに小さく書かれたラクダにも意味を込めた、ということもポストしていましたよね。 Chip Tanaka:作曲家としては、ポケモンをやったり、ゲーム音楽をやってきましたが、同時にある会社の代表を22年間やり、そこを2年前に定年退職したんです。その時に、次に向かうぞ!ってイメージがぴったりだなと思ったんですよ。ラクダで移動しているキャラバン隊的な。本当はこのアルバムはもうちょっと早めに出したかったんですけど、体調を崩したり色々あって今年になった。前の仕事が一段落した時に、ちょっと解放されて自由になったっていう意味も込めたかったのと、この題名とこのラクダで移動しているのがぴったりだなと思って、このジャケットを選んだんです。 ―今作は5曲が新曲で、残りの4曲が人気が高い既存曲のライブ用トラックという構成になっていますが、どういう意図があったんでしょう? Chip Tanaka:実は4曲目と5曲目の間に、もっと色々曲があったんです。でも、アルバムとしてまとめる時、全体的にちょっと弱いと思ったんですよ。そこで曲順を入れ替えたりしながら、ライブでやっていたヴァージョンをうまいこと挟みつつ、あまり全体の印象を変えずに構成を考えていって、最終的にこの形になりました。 ―最初は全部新曲で構成しようとされていた? Chip Tanaka:はい、そうしたかったけど、そうじゃない方がいいなと思ったんですね。あと、ライブのたびにアルバムの曲が進化していくのを、いつも感じていたんです。1番新しいヴァージョンが1番良くて好きだなと思っていて。それを聴いてほしいなっていう気持ちが強かったのも理由のひとつですね。 ―新曲5曲の中だと、どの曲が1番最初にできた楽曲なんでしょう? Chip Tanaka:「Flow」かな。「Flow」と「Neon」は続いていた曲だったんですけど、切り分けました。実は、「Dune」の流れにもっと別の曲がたくさんあったんですけど、全部が落ち着いた曲ばかりになりかけていて、良くないなと思って変えたんです。 ―「Mumbai」と「Dune」はサウンドの雰囲気の差がすごくありますよね。Chip Tanakaらしさとして、矩形波を入れることがテーマになっているのは今作でも変わらないですよね。 Chip Tanaka:自分で縛りを入れているんですよ。全部どこかにそういうゲーム的ニュアンスを入れるようにしています。 ―それは、ルールがあった方が楽曲に個性が出やすいからなんでしょうか? Chip Tanaka:任天堂の時の僕のペンネームがHip Tanakaで、そこにCをつけて、チップチューン的な音楽を始めたんですが、Chip Tanakaっていう名前でアーティスト活動を始めたのは50歳ぐらいからなんです。僕は20代30代とゲームの音楽をやってきて、それらを好きでいてくれる人がたくさんいてくれたと思うので、印象はガラッと変えず、Chip Tanakaの音楽の中に、ダンスの要素とか、自分が今まで聞いてきたような要素も詰め込んでいる。そこからファミコンの音を取っちゃうと普通の人になっちゃうし、そこが自分の中から出るオリジナリティの柱なのかなって思っているから、そこは譲らずに入れるようにしています。 ―今作において、全体的にそこまでチップチューンをメインにしている感じはしませんでしたが、そのあたりのバランスはどのように考えてらっしゃるんでしょう? Chip Tanaka:そこはあまり考えすぎずに作っています。自分が聴いてきた、いろいろな音楽の幅が自然に出てくるのが個性だと思っています。自分の場合どうしても音数が増え、展開が多くなる傾向にあるんですけど、音を削いでいった方が音としては強い。今回はなるべくそういう印象の音にしたいなぁ、と思い制作しました。次はもっとタイトにしてもいいのかなと思ったりもしています。