<スマートスタイル>センバツ平田 第1部 春切符への軌跡/中 守り切る「強さ」実感 /島根
◇秋季県大会・開星戦 高橋選手、勝利呼ぶ好投 「満を持してお前の出番だな」。2019年9月24日の秋季県大会準々決勝、相手は強豪の開星。試合会場の平田愛宕山野球場(出雲市)に隣接する平田高で、植田悟監督が高橋大樹選手(2年)に先発マウンドに立つよう言い渡した。定位置は三塁だが、中学時代にも投手をしていた高橋選手。一人のエースに頼らない植田監督の方針により、普段から投球練習もしていた。「やるっきゃない」 【動画】センバツ出場校、秋季大会熱闘の軌跡 チームは県大会初戦で出雲に2―0で勝利。一回に安打で出塁した保科陽太(ひなた)主将(2年)が盗塁でチャンスを広げ、坂田大輝選手(2年)の適時打で先制するなど、理想的な試合運びだった。続く立正大淞南戦は3―1の逆転勝ち。先発のエース古川雅也投手(2年)は雨が降りしきる中、序盤は制球に苦しむも5安打に抑える力投。攻撃陣は六回、4四球でチャンスを広げるなど、しぶとさを発揮した。 植田監督が開星戦の先発を高橋選手に託すことに決めたのは、18年度春季県大会の3位決定戦でも開星相手に好投したからだ。3―10で敗れたが、打ち取った当たりを味方野手が失策する場面が重なった。高橋選手も「バットの芯を外した投球ができていて、内容は悪くない」と、確かな手応えを得ていた。 そして大一番。高橋選手は打者の内角を突く直球と手前で鋭く落ちるスプリットを軸に開星の強力打線を翻弄。一回、2死三塁のピンチをしのぐと、八回まで二塁すら踏ませない。試合は両チーム無得点で迎えた八回、保科主将の2点適時打で平田が均衡を破った。 九回に大ピンチを迎えた。四球と安打で2死一、三塁にされて適時打を浴び1点差。続く打者には四球で2死満塁。マウンドに選手たちが集まり、捕手の三島毅輔選手(2年)が「いつも通りやろう」と高橋選手の肩をたたく。高橋選手は「『打てるもんなら打ってみろ』と自分に言い聞かせていた」と、強気を貫いたと振り返る。 19年夏の島根大会でもレギュラーだった塩見清太選手(2年)との対決。長打を警戒し、外野は定位置よりも深く守った。大飛球が左翼へ。「やべ、入ったかな」。しかし、バットの芯をわずかに外しており、打球は外野スタンドの手前で失速。落下点に入った左翼・都田明日生選手(2年)がつかんだ。 「とにかくほっとした」と笑みを浮かべる高橋選手にナインが駆け寄った。植田監督が「18年度の2試合でいずれも大敗した相手に勝てたことで勢い付いた」と語れば、保科主将も「あの試合で守り切ったことにチームの成長を感じた」と自信をつかんだ。 チームは準決勝で大社に7―1の快勝。中国大会出場を決めた。決勝の矢上戦は1―3で敗れたが、練習試合で接戦を落とし続けた新チーム結成直後とは似ても似つかない「強さ」を漂わせていた。【鈴木周】