ヒズボラのポケベルはどうやって「爆弾」になったのか
レバノン時間の17日午後3時45分、イスラム教シーア派組織ヒズボラの構成員らが使うポケットベル(ポケベル)3000台以上が同時に爆発した。英BBCはレバノン保健相の話として、子ども2人を含む少なくとも12人が死亡し、2800人が負傷したと伝えている。テクノスリラーでこうした仕掛けが出てくれば、むしろ突飛すぎてあり得ないと思うだろうが、現実の世界ではときにあり得ないようなことが起こるものだ。 現時点で攻撃への関与を認めた組織や個人はないものの、実行したのはイスラエルの情報機関以外に考えにくい。イスラエルの情報機関はイランの核科学者モフセン・ファクリザデを遠隔操作式の武器で殺害したり、パレスチナのイスラム教スンニ派組織ハマスの爆弾製造専門家で、「エンジニア」の異名で知られたヤヒヤ・アヤシュを、爆発装置を仕掛けたブービートラップの携帯電話で殺害したりと、大胆で技術的に高度な「遠距離暗殺」を行ってきた過去がある。 では、レバノンでの攻撃はどのように実行されたのだろうか。 ■「バッテリーの熱暴走」説 当初出ていた臆測は、ポケベルに搭載されているソフトウェアがハッキングされ、バッテリーが過熱して爆発したのではないか、というものだった。 多くのモバイル機器に使われているバッテリーは、いわゆる「熱暴走」を起こしやすい。動作中にバッテリーが加熱すると、バッテリーセル内で化学反応が始まり、さらに熱を発生する。すると、今度はその熱で化学反応が一段と促進され、数秒のうちにバッテリーの温度が400度に達することもある。この高熱によってバッテリーの化合物が分解され、ガスを発生し、それが膨張してバッテリーケースを破裂させる場合もある。ガスの元の有機溶媒は、可燃性で爆発を起こす危険のあるものが多い。 実際、この問題は2016年に韓国サムスン電子製スマートフォン「Galaxy」シリーズの一部機種で続出した発火、電子たばこで相次いでいるやけど、昨年ドイツのルフトハンザ機内で発生したノートパソコンからの出火など、大きな注目を集める事故を招いている。 もっともバッテリーからの発火は普通、セルが損傷したか、セルに製造上の欠陥があった場合にしか起こらない。ほとんどのバッテリーは、通常の使用では基本的に安全だ。米サンディア国立研究所のバッテリー乱用試験所(BATLab)は、ボタンサイズのものから電動トラックに搭載されている大型のものまで、さまざまなバッテリーのテストを行っていて、熱暴走の化学的な仕組みは十分理解されている。 命令によって過負荷をかけられるバッテリーを設計することは可能かもしれないが、こうしたバッテリーはおそらく、レバノンで起こったような爆発ではなく火災を引き起こすだろう。しかし、現地の防犯カメラの映像は、バッテリーより爆発性の高いものが関わっていることを示している。