ヒズボラのポケベルはどうやって「爆弾」になったのか
ごく少量の爆薬で最大限のダメージを与える仕組みに
■ポケベル爆弾 爆風だけでは有効な殺傷メカニズムにならない。対人兵器は一般に大量の金属破片が詰め込まれていて、それが飛び散ることで周囲の人に爆風だけよりも深刻な外傷を負わせる。ウクライナでドローンの爆弾として広く使われているVog-17擲弾(てきだん)は重量350gだが、爆薬は35gしか入っていない。 もし攻撃者がポケベル内の爆発装置を調整できたとすれば、ポケベルのパーツを破片として使えるように爆発装置を配置し、先に挙げたような小型地雷よりも有効なものにしていたのかもしれない。ポケベルは片面を体側に向けてベルトクリップに装着するようになっているから、指向性の爆発装置が開発されていた可能性もある。こうした爆発装置は、サイズの小ささから想像されるよりもずっと致死的なもののはずだ。実際、ヒズボラの構成員数百人が重傷を負ったということなので、この爆発装置はサイズの小ささの割に殺傷性が高かったと考えられる。 この攻撃は一度限りのもののようにみえる一方、翌日には、トランシーバーに仕掛けられた爆発装置も爆発しており、これは最初の攻撃の延長のようにみえる。トランシーバーのほうも、ポケベルの場合と同様にサプライチェーンが侵入を受けていたのだろう。いずれにせよ、この事件を受けて、武装組織などの構成員は、携帯型の電子機器に爆発装置が仕掛けられるリスクを強く意識するようになっているに違いない。 両日の爆発は、合計でもわずか数kgの爆薬を用いた目標をかなり限定した攻撃で、一度に数千人の敵に打撃を与えられるということをまざまざとみせつけた。 ■新たな情報 ポケベル爆弾についての新たな情報は、使われた爆薬はごく少量だったという見方を裏づけている。米公共放送PBSは、不発のポケベルを調べたヒズボラの専門家らと接触した関係筋の話として、「3~5gの高性能爆薬」が仕込まれていたと伝えている。 米紙ニューヨーク・タイムズは、ポケベルのバッテリーに、爆破用途や弾薬に使われる軍用爆薬であるPETNが組み込まれていたと報道している。バッテリーセル内に爆薬を入れると発見が非常に難しくなる半面、プロセッサーと直接つながれていなければ起爆は難しくなる。 一方、ロイター通信はレバノンの治安当局筋の話として、「(イスラエルの情報機関)モサドは爆薬を含む基板を装置内に挿入した」と報じている。爆薬が回路基板の上、もしくは基板そのものに組み込まれていれば、起爆制御がしやすい半面、見つかりやすくもなる。 ごく少量の爆薬でも有効だった理由のひとつは、起爆の手順にあったようだ。ポケベルはエラーメッセージでユーザーに画面を見るように仕向け、それに続いて爆発したとされる。このため、手や顔にけがを負った人が多かったという。多くの被害者が、画面やポケベル本体のからの破片で片目あるいは両目を負傷している。 装着された状態でポケベルが爆発していた場合は、けがはもっと軽かっただろう。ポケベル爆弾による攻撃は、花火程度の爆薬で最大限の傷を負わせるように入念に仕込まれていた。超小型爆弾を用いた巧妙な攻撃は今後も起こることが予想される。
David Hambling