渋谷にARのキノコ雲、ウクライナ戦地を3D化 戦争をデジタルで伝える人たち #戦争の記憶
新しい伝え方で戦争や災害を伝え続ける
戦争や災害をデジタルアーカイブ化することは、紙からデジタルに移行するだけの変化ではないと渡邉さんは言う。
「デジタルアーカイブに加工して、誰でもアクセスできる状態にするのが大切。戦争や災害の記録や証言に利用者が簡単に触れられるようになれば、そうした問題もより身近に感じやすくなる」 すると、デジタルの制作者側も変わっていくという。 「コンテンツをつくる過程で、発生した時間や場所など、いろいろと調べていく。すると、結果的にその出来事に詳しくなります。おもしろいことに、その人自身も語り部に変わるのです」 現在、渡邉さんの周りでは、戦争に興味を持ち、新しい伝え方を模索する若者たちが育っているという。 冒頭の中村さんは原爆の脅威を被爆地以外の場所で伝えるために、ARで渋谷の街なかにキノコ雲を出現させた。渡邉さんの研究室には、戦時中の古い写真の中に自身がアバターで入りこむ体験ができるプログラムをつくった人や、コンピュータゲーム「マインクラフト」を活用して戦争の悲惨さを感じてもらうイベントを企画した人がいる。 若い人たちの新しい伝え方が、戦争を錆びない情報にさせていくのではないかと渡邉さんは言う。 「僕らもだんだんと年を取ってくるので、一度成功した方法でも、将来、子どもたちには伝わらなくなります。若い人たちが新たな手法を生み出し、表現の仕方も一緒に、より若い世代に手渡していくことが大切だと感じています」 --- 荒舩良孝(あらふね・よしたか) 1973年、埼玉県生まれ。科学ライター/ジャーナリスト。科学の研究現場から科学と社会の関わりまで幅広く取材し、現代生活になくてはならない存在となった科学について、深く掘り下げて伝えている。おもな著書に『生き物がいるかもしれない星の図鑑』『重力 波発見の物語』『宇宙と生命 最前線の「すごい!」話』など。 --- 「#戦争の記憶」は、Yahoo!ニュースがユーザーと考えたい社会課題「ホットイシュー」の一つです。戦後80年が迫る中、戦争当時の記録や戦争体験者の生の声に直接触れる機会は少なくなっています。しかし昨年から続くウクライナ侵攻など、現代社会においても戦争は過去のものとは言えません。こうした悲劇を繰り返さないために、戦争について知るきっかけを提供すべくコンテンツを発信していきます。