なぜJリーグ再開は延期でなく白紙になったのか…問われる村井チェアマンの決断力
しかし、中断期間がさらに延び、その先の見通しも立たないことで、経営基盤が脆弱なクラブが危機に陥る最悪の事態も現実味を帯びてくる。不安を抱えながらこの先も活動を続けることのないように、村井チェアマンは1日の臨時実行委員会で全クラブの代表取締役らの前である宣言をしている。 「今シーズンはJリーグにとって有事という認識のなかで、競争フェーズからいったんチューニングを行うと宣言しました。経営危機に陥るクラブが出てくる可能性もありますし、リーグ全体が平時とは違うオペレーションに移行せざるをえない状況で、すべてのクラブが安定的にサービスを提供できるように、経営基盤をしっかりと守るためにモードを変えることを各クラブへ申し上げました」 産声をあげた1993シーズンからJリーグは共存共栄を掲げ、いわゆる護送船団方式のもとで発展を遂げてきた。そして、村井チェアマンも尽力した、スポーツチャンネルの『DAZN』を運営するイギリスのDAZN Groupと10年間、総額約2100億円の大型放映権契約を結んだ2017シーズンからモードを競争へとスイッチ。経営努力や競技成績が反映されるオペレーションへ移行した。 あるクラブの強化担当者は「勝ち組と負け組がはっきりと分かれてくる」と、2017シーズンからの戦いへ危機感を強めたこともある。優勝クラブへ翌年以降の3年間で総額15億5000万円が支給される、DAZNマネーを原資とした理念強化配分金は競争モードの象徴となる施策でもあった。 理念強化配分金や優勝賞金などのあり方を今シーズン限定で見直し、黎明期や身の丈にあった経営が叫ばれた時期の象徴でもある、護送船団方式に戻ってでも全クラブを存続させる。村井チェアマンのもとで発足した4つのプロジェクトのなかには財務対応チームも含まれ、全クラブのキャッシュフローを随時把握しながら、新型コロナウイルス禍に特化した融資制度の新設も進められている。 3日には全クラブの運営担当者の会合がウェブ会議形式で入っていた。しかし、午前中の連絡会議で段階が変わったと判断した村井チェアマンが、急きょ実行委員にも参加を呼びかけ、総勢で200人近くをウェブで繋いだ会議へと変わり、全会一致で日程を白紙に戻すことを決めた。 未曾有の状況下で求められるのは、トップに立つ人間の大胆かつ一貫したリーダーシップとなる。Jリーグはシーズンを成立させる条件としてリーグ戦全体の75%以上、各クラブの50%以上の試合消化を決めている。今回の合意で日程的な猶予も少なくなってきたなかで、2014年1月の就任から4期目に入った村井チェアマンの行動力と決断力は、Jリーグ全体が前へと進むための羅針盤となっている。 (文責・藤江直人/スポーツライター)